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作品名:Pandora 作者:あすか

第22回   あの日の記憶
 そこには私達に駆け寄ってくる何人もの男たちがいた。
 私はその男たちから明らかな敵意を感じた。
 白石に狙われる理由があるとは思えず、男達は私を狙っている以外あり得なかった。

 白石も危険を察したのか、とっさに私の前に立つ。
 私の前に大きな壁ができた気がした。
 でも、私はあり得ないと思った。
 白石はすでに怪我をしているのだ。
 ここで、人を襲おうとしているような大人たちと戦っては、さらにひどい事になる。
 白石がこれ以上怪我をするのは見たくない。ましてや、殺されでもしたら。
 「きゃあー。助けて!」
 私はそう思うと、大声で叫びながら、白石の腕を掴み、私の横に引き戻した。
 その時、白石を狙っていた男の拳が私の目の前に飛んできた。
 「殴られる」
 私は一瞬殴られる恐怖に襲われた。
 その時、私が男の腕を握り潰したと言うあの事件の光景が、頭の中に蘇って来た。


 あの時。


 「ぶっ殺す!」
 そう言って、あの男の人は小さな私に殴りかかってきた。
 「殴られる!」
 私は殴られるのが怖くて、その拳を止めようと、私に向かってきていた男の腕を思いっきり掴んだ。

 ぐしゃり。

 そんな音と感触が耳と手から伝わって来た。
 その次の瞬間、私に掴まれた男の腕の部分は何も無くなっていた。
 そして、そこから勢いよく吹き出す血は、私の顔面を生温かく、ねっとりと濡らして行った。

 あれは、やっぱり私がやった事?

 私はその光景が恐ろしく、首を激しく振りながら目を閉じた。
 さっき、私に向かってきていた拳が当たったのかどうかも分からなかった。
 目の前の男たちに対する恐怖など、有って無きがごとくのさらに巨大な恐怖が私を襲ってきていた。
 私は頭の中によみがえってきたその恐怖に耐え切れなくなり、大きな悲鳴を上げた。
 「きゃー!」
 そして、私はそのまま意識を失っていった。


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