白石が保健の先生から行くように言われたのは、この街の中心にある総合市民病院だった。 私がバスに二人並んで乗っている間、白石は私が自分の怪我を気にしている事を忘れさせようとしてか、明るく振る舞い、色々話しかけて来た。この前までは、そんな白石が鬱陶しかったが、今は白石の事を知りたい気になっていた。 そして、バスで揺られている間に、私は何だか、白石が愛おしいと感じ始めている事に気付いた。 そんな単純でいいのか? 私は心の底で自問自答してみたが、否定的な答えは浮かんできそうにない。
病院では私は付き添って回った。病院の人たちからは保健委員かなにかだと思われていたにちがいない。 とりあえず、外来の処置だけで終わったので、私はほっとした
白石の治療が終わり、清算を済ませた頃はもう昼だった。 私たち二人は再びバスに揺られながら、学校を目指す。 病院に向かった時と同じで、白石は色々な事を語ってくれた。 その話は面白く、私の心の奥にある罪悪感と言うか、白石に対する申し訳ない気持ちは時々忘れさせられていた。 二人を乗せたバスは学校に続く道路に入った。この道をまっすぐ進めば、しばらくして学校に着く。 私は少し寂しい気がして来ていた。
これはやはり恋?
こんな単純に人を好きになっていいのだろうか? 再び私は自分の気持ちが分からず、自問自答し始めた。
「早川さん。もう着くよ」 「あ?うん。今日は本当にありがとう。ごめんなさい」 私は座ったままだったが、もう一度礼を言った。 「いいよ。早川さんに殴られた訳じゃないしね」 私は顔を上げて、白石を見た。腫れた頬が痛々しげで、ついつい私は手で触れてしまっていた。 「早川さん」 私はその声で、現実に戻った。 「あ、ごめんなさい。つい、かわいそうにと」 「あ、もしかして、早川さん俺に惚れた?」 「はあ?」 今までの私なら、そう冷たく言い放つはずだったが、言うべき言葉を見つけられず、それどころか赤面しているのか、顔が熱くなっているのを感じ、黙り込んでしまった。
「ちゃうか」 白石は冗談ぽく話を終わらせたが、まさにその通りのようだった。
私たちはバス停でバスを降り、学校の校門を目指して歩き始めた。 校庭からは体育の授業らしい声が聞こえている。 それ以外の音と言えば、私たちを乗せていたバスが走り去る音くらいだ。
学校の前の道は片側2車線あるが、昼間の交通量は少なく、見える範囲には走っている車がいない事も稀ではなかった。そんな交通量なのに2車線あるため、不法駐車していても、交通が滞る事はなく、近くの住民関係と思われる不法駐車がいつもちらほらと止まっていた。 今日も何台か止まっており、バス停と校門の間にもワンボックスカーが止まっている。 私たちはその横を抜け、校門を目指していた。
「おい。どう言う事だ?あれがターゲットだろう? 今頃、バスから降りて来たぞ」 そう言うと、ワンボックスカーの中の男たちは手にしている私が写っている写真と私を見比べていた。 「間違いない。あの子だ」 「男と二人?朝帰りでもあるまいし」 「男は怪我をしているみたいだな。何かあったんだろう」 「どうする?」 「今は人通りが少ない。下校を狙うより、今の方がやりやすいんではないのか?」 「では、行くか」 「ああ」 背後のワンボックスのスライドドアが開く音を感じたが、私は全く気にしていなかった。 そして、次の瞬間、背後から人が駆け寄って来る気配を感じ、ようやく私達は振り向いた。
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