ほっとした私は涙腺が緩んだのか、頬を涙が伝っていた。 「おいおい。結希」 祖父が照れた表情で言う。 祖父から聞いた話では、 叔父の研究に関して何か知らないかとか、 今回襲われた理由に心当たりは無いかとか、 と言った事を聞かれたらしかった。 「叔父さんの研究?」 私はそう言えば、あの研究所には両親を失ってからは叔父が親代わりだったため、何度も遊びに行ったことがあるが、幼かったため、叔父が何を研究していたのかは私は知らなかった。 「そう言えば、何を研究していたの?」 私は真剣なまなざしで、祖父にたずねた。 「まあ、医学的なものだが、私の専門外の分野なので、詳しい事は知らないんだよ」 「そうなの?」 「ああ」 私は祖父の口調に、何か隠していることを確信したが、知らないと言うものを聞き出すことはできないと思い、それから先は言わなかった。 代わって口を開いたのは真だった。 「結希ちゃんは、研究所には行ったことあるの?」 なぜ、真がそんな事を聞きたがるのか?と思ったが、そのまま答えることにした。 「うん。小さい時に遊びにね。と言うか、叔父さんは私の親代わりだったんで、私を一人にしないために、時々研究所に連れて行かれてたんだ」 「それだけ?」 「それだけって?」 「いや。遊んだだけかって事。他に何かしたとか、されたとか」 「意味分かんないし」 「本当に」 真は少し不満げにそう小さな声で呟いた。私はその言葉に、いらっと来た。 「何が言いたいのよ。はっきり言いなさいよ」 「いや。何も」 「まあ、待て。とにかくだ」 二人がもめそうな雰囲気になったので、祖父が口を挟んで、その話題を打ち切った。 私としてはすっきりしない気分だったが、祖父が止めたのに蒸し返すのも何なので、祖父の話の続きを待った。 祖父は一呼吸置いてから、真剣な表情をした。 「奴らが、また来るかも知れん」 「はあ?まじ?何で?」 私は驚きでいっぱいで、そう言った。そして、それは真も同じだろうと思って、真の反応を見たが、真は想定内だったようで、その言葉に真剣な表情でうなずいている。 何だか私には分からないが、この二人には何か思い当たるものがあるようだ。私はそれでは一人仲間はずれであり、事実を知っているのと知らないのでは、対応を誤るではないかと言うという事で、その話を聞こうと思った。 「二人は何か知っているの?どうして、襲われたか? もしかして、叔父さんの研究と何か関係があるの?」 私の真剣なまなざしに、二人が顔を見合わせた。 そして、祖父がぷっと吹き出すと、真まで大笑いを始めた。 「そんな事あるわけないじゃないか」 真が笑いながら、私にそう言う。 「本当に?」 私は祖父を見つめながら、そう言った。 祖父は私の方を見ながら、うなずいて見せた。私はそれでも、納得はできなかった。私の知る限りでは、民家をあの化け物が襲ったのは今回が初めてであり、それも多くの人間も一緒に来たと言う事はそれなりの理由があったはずである。しかも、この家にはそれを防ぐだけのセキュリティと言うか、トラップもあった訳で、ある意味、こうなる事を予期していたとしか考えられない。 私はもう一度聞こうか、諦めようかと迷った後、もう一回だけ、聞いてみる事にした。 「じゃさ、何で、この家にはあんなトラップが用意されていたの?」 「何を言っておる。この家は以前泥棒に入られ、荒らされたことがあったじゃないか」 「それはそうだけど。この家のセキュリティは行き過ぎじゃない?」 「備えあれば憂いなしだ。そうだろ?」 祖父が真に同意を求める。 「そのとおり。じっちゃんは正しい」 二人だけが知っている真実がある。そして、それを私には知らせたくはない。私はそう確信を深めた。
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