次の日、私が学校から帰ってきた時、玄関辺りには何人かの人たちが壁を修理するため、工事をしていた。素人の私が見た感じでは、修理の状況はまだまだと言ったところで、今日中には終わらなさそうな気がした。 「お疲れ様です」 私は働いている人たちにそう言った。作業をしている職人さんたちは軽く会釈を返してきた。 私はそんな職人さんたちの横を通って、家の中に入って行った。 「ただいま」 家の中から、返事はない。工事の人たちがこんなにいるのに、どうしていないのかと思った時、背後から声がした。 「家の人なら、化け物を連れて行った警察かなんかの人たちに、連れて行かれたよ」 「は?どうして、また?」 「参考まで事情を聞きたいと言っていたよ」 「ありがとうございます」 私はそう言い、頭を下げた。
この国の治安機関と言うものを信用していない私は、祖父の事が心配で心配で仕方なかった。しかし、今の私にできる事はない。真が早く帰ってきて、この話をしたい。ただ、それだけだ。 「そう言えば、昼前まで、この辺りには警察だけでなく、報道陣がつめかけていたよ」 背後から、そんな言葉も聞こえてきたが、もう私の心の中にそんな言葉を吟味する余裕は無かった。
真が帰って来たのは一時間ほどしてからだった。私が一人で家で待っていたその時間は、それ以上の長さに感じていた。それだけに、私はいてもたってもいられず、二階から一階まで駆け下りて行った。 「真!」 私はそう言うと、真のところまで走りより、真の腕のあたりを両手でしっかりと掴み、真の身体を揺さぶった。 玄関の工事をしている職人さんたちの視界の中だったが、私はそんな事を気にしている余裕は無い。 「どうしたの?結希ちゃん」 「おじいちゃんが、連れて行かれたって!」 「どこに?」 真の表情もこわばった。 「参考まで事情を聞きたいって事らしいんだけど。詳しい事は分からない」 「大丈夫。すぐ帰ってくるよ」 今度は真が私の腕を持って、落ち着けと言わんばかりの表情で、私に言う。 真の言葉と表情は少し私を落ち着かせたが、それでも私の不安は打ち消されてはいない。 「でも」 私はその不安を口に出した。 「大丈夫。落ち着いて。僕が電話で調べてみるよ」 「うん」 私はうなずいた。情けない話だが、私自身では何もできない。でも、真なら何とかしてくれそうな気がした。
真はリビングに行くと、警察やら関係しそうなところに電話をかけ、祖父の事を知っている関係者を探し始めた。しかし、隠しているのか、それとも本当に知らないのか、祖父の事を知っていると言う話はどこからも聞く事ができなかった。 横で真の電話を聞いていた私はそんな状況を感じ取り、一旦おさまりかけていた不安が再び大きくなり、表情には悲壮感があふれていた。真は私を落ち着かせようとしてはくれていたが、それだけの安心材料を見つけられず、真自身にも焦りが出始めていた。
日が落ち、辺りが暗くなってかなり経った頃、階下から工事が終わったとの連絡があった。 玄関のドアが壊れたままだと、危ないため、何が何でも終わらせると言うことになっていたらしい。 時刻はすでに午後9時にさしかかっている。 外の暗さも手伝って、しだいに真も不安になってきている気がした。 「ピンポーン」 そんな時、廊下で音がした。 祖父が帰って来た以外ありえない。二人は慌てて立ち上がると、玄関に向かった。 「ただいま」 祖父はいつも通りの声で帰ってきた。その元気そうな姿を見て、私は安心した。そして、祖父に飛びついて、抱きついてしまった。
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