「時間が短すぎて、探し出せなかった」 男は悔しそうな顔をした。その一瞬の後、目を見開いた。 「いや、やはりマイクロチップは別のどこかに持ち出されていたはずだ。 どこに? あの日見た姪っ子を連れた男。それが所長の父親だと分かった時、一番に疑った。そして、留守の間に家捜ししたが、何も出なかった。 小さすぎるからか? あの家のパソコンの中にも、それらしいデータは無かった」 男はゆっくりと目を閉じると、上を向いて黙り込んだ。 「しかし、あの男以外あり得ない」 そう言うと、机の上の電話を手に取り、どこかにかけ始めた。
私はパジャマ姿でベッドの中で眠っていた。まだこの季節、深夜ともなると気温は低くなり、カーテンを閉じた窓からも、ひんやりとした空気が漏れてきて、部屋の中は少し肌寒くなってきていた。 私は夢の中で、音楽を聴いていた。 「あれ?この音楽、どこかで聴いたことが。 どこでだっけ?」 何か気づかないといけない気がするのだが、それが何だか分からず、やきもきしだしていた。その時、夢から覚醒に急速に私は進み、音楽の意味を悟った。 「侵入者!」 私が目を覚まし、ベッドから飛び起きた時、部屋のドアが開いた。 私は一瞬身構え、それが誰なのか目を凝らした。 真だ。 安心したのもつかの間、パジャマを着たこんな姿を見せたくはないので、あわてて布団を巻きつけた。 「早く。誰か侵入してきた」 真が急かす。 「でも」 私にも乙女の恥じらいがある。パジャマ姿は見せたくない。 「でもなんて、そんな事言っている場合じゃない」 真はえらく真剣で、危機を感じ取っているようだ。そんな切迫した状況ではなく、ただの間違いや、すぐに引き揚げるのではと言う楽観していた私とは大きく温度差があった。 「早く」 そう言って、真は私の腕をつかみに、部屋の中まで入ってきた。 もうご勘弁。 私は正直そんなところだったので、真に出て行ってもらうために、ベッドから立って、部屋を出る事にした。 「でも、どこへ?」 「地下室」 「地下室?」 この家にそんなものがあるなんて、私は知らない。 何で、私の知らないような事を、この居候が知っているのか?聞きたいところだったが、そんな暇を与えてくれそうにもなかった。真は私をぐいぐい引っ張って、一階に連れて行った。
一階のキッチンには祖父が立っており、キッチンの床が開けられていた。 「さ、早く」 祖父までが、そう言っていることで、私はこれが本当に危険な状況になっているんだと悟った。私の顔はこわばりだしていた。 「はい」 私はそう答えると、その地下室の階段に足を入れた。続いて、真や祖父が来るのかと思っていたら、中に私が入ると、祖父は地下室への入り口を閉め始めた。 「待って。おじいちゃんや真は?」 「そこに隠れるのはお前だけだ。私達は外で戦う」 「戦う?誰と?泥棒?」 「話は後だ」 祖父はそう言うと、地下室に通ずる階段が隠されている床を閉じた。
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