私がそんな日々を送っている間にも、あの化け物はあちこちに出没していた。 ただ、警察や治安部隊側も、馬鹿ではない。攻撃を変えることで、化け物にも傷を負わせるようになっていた。真が言ったように骨や筋肉が鋼鉄並みだったとしても、弱い部分はある。 目やのどなんかはどうしようもあるまい。 いや、物理的攻撃にこだわらなければ、もっと選択肢は広がるはずだ。 政府側はまだ化け物を葬ってはいないが、傷つけて撃退出来たりするようにはなっていた。 そして、あの化け物が流した血液から、DNAが解析された。
この国のトップはもう数十年君臨している松下大統領だ。 若い頃の事は知らないが、今では国民の多くがこの男の事を嫌っている。 その理由は簡単である。 国家のためではなく、私利私欲で国を動かしているからである。 しかし、選挙と言う手法を奪われた国民にはこの男を引きずり降ろす具体的な手段は無く、反政府デモを行うのが関の山だった。 ただ、それさえも、この男は治安部隊を使って、鎮圧するため、デモも命懸けだった。
子豚ならぬ大豚並みに太った大統領は、執務室の椅子に腰かけている。特注で作った幅広の椅子でさえ、この男が座ると小さく感じられた。 そして今、大統領の前に立っている男は、最新の情報として、あの化け物のDNAの解析の結果を報告していた。 「つまり、あれはほとんど人間に近いと言う事か?」 「はい。あるいはミュータント。遺伝子操作。そんな所かと」 「遺伝子操作?」 大統領が椅子を反転させ、男たちに背を向け、何かを考え始めた。 そして、男たちの方に向き直ると、昔の話を始めた。
「今から、10年ほど前だったかな。ある研究所が遺伝子操作技術を開発した。それは生きている人間の遺伝子を組み替えて行くと言う技術だ」 「生きている人間のですか?」 「ああ。本来は医療技術として、開発されていた。たとえば、遺伝子が原因の難病があったとして、その患者の問題となる部分の遺伝子を入れ替えることで、治療できると言うものだ。 元々はそれが開発の出発点で、その基本技術はかなり以前に完成していたらしい。しかし、理由は知らんが、その研究所は技術を公表することなく、更なる研究を続けた。 そして、その結果、研究成果はさらに高度に進化した人間を作り出す所にまで昇華した。 私はその技術の存在を知り、研究所を接収しようとしたのだ」
大統領はそこで一度言葉を止めた後、にやりとした表情を浮かべ、話を続け始めた。 「危ない技術ほど、欲しくなるものだからね。野望を抱く者にとってはね」 再び言葉を止めると、今度は忌々しげな表情をして、話を続け始めた。 「しかし、その前日にその研究所は灰塵と帰した。全ての研究者と共にな。 おそらく、自ら火を放ったのだ。奴らはよほど私にその技術を渡したくなかったのだろう」 「では、今回の騒動はその技術で作られたある意味、改造人間だと?」 「その可能性がある。あの研究所の関係者か、全く別の者かは分からんが、技術的にはそう言うものの可能性がある。 実際、その焼け跡から見つかった遺体の数は、そこの職員の数より一人少なかった」 「分かりました。では、その研究所の線から、追ってみます」 男はそう言うと、大統領執務室を後にした。
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