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作品名:ネオ・反復の時 作者:くーろん

第5回   一人酒で考える事
過去を振りかえることは現役を生きようとする者にとっては時間の浪費でしかないかもしれない。
現役で生きようとする者は開かれた未来のみに自分の全存在をゆだねるように心がけるべきであるかもしれない。
確かに自分の過去の経験を含めた自分自身というものを再認識することでこれから起こるであろう未知の出来事に対処しようとするのは間違った判断ではないが、出来事が到来した後で振り返ってみると、自分は凡庸な対処をしてしまったということ、最大に生かせるチャンスを失ったということに気がつくだろう。
そして、なぜ自分はそのように行動したのかと考えると、行きつくところは、自分の過去の経験にとらわれ過ぎたこと、過去の自分がこうであるという認識にとらわれ過ぎたことに気がつく。だから、現役で生きようとする者にとっては過去を振りかえることに割く時間は少ないほうがよいのだろう。これから起こるであろう未知の事態に対して先入観を持つことなくあるがままに受け止め、あるがままの自分の能力と力で対処することが最善であるのだろう。

ここで一人の男早川零人が酒を飲みながら過去を振り返ろうとしている。

早川零人、現役であり、人生というゲームでは相当に勝っているので、別にこのゲームを降りる動機も見当たらない。
彼は激しい生存競争の切磋琢磨の中にいる。
しかし現役で生きようとする者皆が同じである。自分が苦しい時は敵も苦しい、敵が苦しいときは自分も苦しい、そのような切磋琢磨の戦いの紙一重の差異が勝者と敗者を分かつ。
そんなことも零人にはわかっていた。
それがわかっていても彼にとって哲学は重要であると思えた、他の人はともかくとして自分にとっては少なくと哲学すること無くして生きることは意味がないように思えた。
なぜなら、彼は偶然という神が作り出す人間の運命を驚異の念を持って見ていたからだ。彼のような幸運が天から降ってきた人間にとっては、まじめに努力したり、目先の些細な目的達成のために毎日切磋琢磨している人間の姿は馬鹿らしいものに映ることがしばしばあった。
だから、彼はこの偶然という神に神経質になり、哲学せざるを得なかった。
多くの現役を生きようとする者にとっては昔の思い出などを振りかえることは、マイナスでしかないとしても、零人の現在の状況があまりにも自分の実力をかけ離れて出来上がっていることが彼には大きなストレスとなっていた。

そして、運命に向き合ったとき、自分をこのような高みに押し上げた者を神として恐れることで宗教を信じて生き方があった。

しかし、彼は宗教ではなく哲学を生き方に選んだ。


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