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作品名:ネオ・反復の時 作者:くーろん

第2回   2
耳のワイヤレスイヤホンを触って日本語音楽モードにしたときバスが停車場に滑り込んできたので白鳥可奈子は一番に乗り込んだ.


― ♪1月のお正月でもない♪
― ♪2月のバレンタインのチョコレートを贈ることもない♪♪
― ♪3月の春一番でもない♪♪♪

先日、零人から「会いたい」のLINEのメッセージを見た可奈子。

― ♪何も歌うこともない♪
― ♪今日は何もないありきたりな日なんだ♪

「そうね、今日はありきたりの日だけど、晴れて日差しが気持ちがいいよ、でも零人はなぜ会いたくなったのかしら」と窓の外に目をやる可奈子。

― ♪4月の雨は降らない♪
― ♪5月の咲き誇る花ものない♪
― ♪6月の花嫁は遠いけれど♪
― ♪しかし、何が今あるかって♪………. ……….
― …….. ♪それは真実そのものが今ここにある♪……..
― ……..♪…….. ♪………. ……….ニヒル言うぞー…….

「Bluetoothのつながりが変だわ、それに変な雑音を拾ってる」とスマホを見る可奈子。

― ニルヒル言うぞ…ニヒルルルる言うぞ…. ♪それは3つの言葉でできている♪..ニヒル言うぞ….ニヒル言うぞ…ニヒルルル…..

「誰よ!……その声は……あなたね……また来たの……もう来ないでって言ったでしょう…..」と隣や前後あたりを見回す可奈子.
でもそのバスにその男は乗っていない。

― ニヒル言うぞ…ニヒル言うぞ…可奈子、可奈子、今日はそんなにオシャレして一体どこへ行くんだい

「どこでもいいでしょう関係ないでしょ」

― …..ニヒル言うぞ…待ち人ならきっと来ることはないのにニヒル言うぞ…

聞こえなかった振りをして知らぬ顔する可奈子。

― ♪アイ・ラブ・ユウと伝えたいから今さっき電話したんだ♪
― ♪どれほど想っているか、愛していると伝えるために電話したんだ♪
― ♪心の奥底から想っているのは本気で言っている♪

― …..ニヒル言うぞ…あの男が彼氏になるのか…零人か、でもオマエは零人とは結ばれないという予定調和…..ニヒル言うぞ

「彼氏なんかじゃないよ、先日船上結婚式で会ったばかりで、会いたいって言って来たからだけじゃない」

― ♪7月の真夏の日差しもないし、温かくもないし♪
― ♪8月の夜にやさしく照らす中秋の満月もないし♪
― ♪9月の秋の微風も、落ち葉もないし、南の空へ鳥たちが飛び立つ時期でもない♪

― …..ニヒル言うぞ…オマエはそうは言っても零人と中学三年のとき公園のブランコでキスしそうになったんだろう…だからあの男と会って何かが起こることに胸を膨らませて来たんだろう、でも零人は今日は来ない…..ニヒル言うぞ…

― ♪10月になってお日様にてんびん座が寄り添うこともなく♪
― ♪11月のハロウインでもない♪
― ♪12月になって君のくれるクリスマスの喜びに感謝することもない♪

― …..ニヒル言うぞ…零人は今日は来ない….零人は今日は来ることはない…...ニヒル言うぞ…

可奈子は弐蛭幽三の声を無視して歌のほうに集中しようとしたが、流れる雲が陽を隠し、車窓の明るい日差しが暗くなったとき、彼女の心も曇り、下を俯いてしまった。

― ♪だけど、それが何であるかって、古いけど新しいことなんだ♪
― ♪君の心を一杯にするにはこの三つの言葉しかできないんだ♪アイ・ラブ・ユウ♪♪

スティービーワンダーの歌を聴いてた可奈子は今日が1年のお祝いのどの日より一番大事な日なんだと背中を押されているのを感じた。

そのとき、バスが大きな立派なホテルの前で停車する。

突然顔を上げて憤然として、元気に彼女の鳩胸を前に思いっ切り突き出すと、
「私は後ろは見ない!もう来ないで!失恋の予定調和の占い師はあっちへ行って!」
とイヤホンを投げ捨てるように外すと駆けるようにバスから降りて行った。

バスを降りた可奈子は何かから逃げるようにホテルの開いたフロントドアをくぐった。
吹き抜けロビーエントランスの中の広いカフェに向かった。
カフェには空席ばかりで零人の姿はなかった。
エントランスが見える席に座る。約束の時間になっていた。
スマホを取り出して、LINEを見るが零人からのメッセージは来ていない。

5分過ぎたので、零人に「今、エントランスカフェに来ている、可奈子」と発信する。

さらに5分過ぎても何も返信が来ない。

「ニヒル言うぞ…ニヒル言うぞ」

黒いフードでマスクをした弐蛭幽三が横のアクリルボードの向こう側にいつの間にか座っていた。
可奈子はビックリしたが声を上げなかった。

「ニヒル言うぞ…ほら言った通りだろう、来ないだろう」

「違うわ、道路が渋滞だわ」とLINEを見る可奈子。メッセージは来ていない。

「ニヒル言うぞ…彼は来ない、待つよりオレたちの世界のほうへ行って楽しく遊ばないか、オマエが来たら暗黒の女王として迎えてあげるぞ」

憤然と彼女の鳩胸を元気いっぱいに突き出して「行くわけないでしょう!暗黒の女王なんて要りません」と可奈子が声を上げる。

偶々近くを通ったウイエターが「お客様、どうされましたか」と訊く。
可奈子が「何でもありません、ちょっと携帯の不具合で」とその場を繕う。
ウエイターには座っている弐蛭幽三は見えていないようだ。

「ニヒル言うぞ…興奮するなよ」

さらに5分が過ぎようとしていたが、LINEにはメッセージは来ていない。

可奈子が泣きそうな顔になる。

その時、エントランスのドアが開いて零人が入ってきた。

「ニヒル言うぞ…今日はオレの負けだ、退散するよ」と一匹のコウモリが吹き抜け抜け天井を飛んで、開いたエントランスドアの外に飛び去った。

ウエイターが鳥でもいたのかと思って不思議そうに見ていた。

零人はカフェの可奈子を見つけると席にやってきた。

可奈子が横の席を見ると弐蛭幽三はいなかった。


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