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作品名:ネオ・反復の時 作者:くーろん

第13回   13
零人を乗せた斜人の車が走り出す。零人がハンドルを握りしめる。急カーブを曲がる。

「ADモード外していてこんなにスピード出して大丈夫か?」と零人。
「心配するな、俺はレーサーだ。渋滞に遭う前に抜けないと」と言う斜人。

窓の外を見ながら零人が「父親は悪いのか?」
「今朝、入院したが、最近、容態は悪かった」
「お前、レーサーになったのか、その話もゆっくり聞きたいな」と零人が言う。
「ああ、いつか」と斜人が薄笑う。

車が高速でトンネルを抜けると高い白い病院のビルが見えてきた。

病室の前に2人が立つ。

ドアに札が貼ってあり、XR作動 ONとなっていた。

さらにVR、AR、MRと並んでいてMRに〇がついていた。
XR(クロスリアリティ)とは現実世界と仮想世界を融合し、新しい体験を創造する先端技術で、さらに「VR(virtual reality仮想現実)」「AR(augmented reality 拡張現実)」「MR(mixed reality複合現実)」などのオプションが選べる。

ドア引き戸には鍵はなく二人が扉を開いて中に一歩入った。

目の前には深い緑の森が広がる。
木漏れ日が輝き、小鳥のさえずりが耳に心地よく響く。

斜人が「ここはお花畑だな」と笑う。

森の中に丸木小屋があり、近くの井戸の水を汲んでいるナースコスプレの美少女がいる。
小屋の入り口近くに父親が安楽椅子に寝そべっている。

二人に気づいて父親が手を挙げる。
二人が小屋まで歩いていく。

父親にはシロナツメクサの葉が一杯に掛けられて緑草の布団に寝ているようだった。

安楽椅子の横の丸いサイドテーブルに置かれた古いラジオから思い出のグリーングラスが流れている。

♪It’s good to touch the green green grass of home♪

斜人が井戸のナース美少女に「会長の容態はどう、話ができますか」と聞く。

水桶を置いて「今日は朝から調子がよくて、今なら少しはいいと思う」と若いキレイな声で応える。

二人が会長の近くに行き、
「社長をお連れしました、それで要件は」と斜人が言う。

会長がクローバーの葉を一枚摘み、
「この葉の匂いは幼児の頃に初めて嗅いだ臭いを思い出させる」と言う。

それから「四つ葉には「希望」、「信仰」、「愛情」、「幸福」という四つの葉に意味がある」と続ける。

斜人「そんな話をするために社長をお呼びになったのではないでしょう」不満を述べる。

「まあ、待て」と遮り「美穂さん、後で花壇に水をやってください」とナース美少女に会長が言う。

「会長、この雰囲気で話はどうですか?それからナースさんにも席を外してもらっては」と斜人が言う。

会長が「わかった」。
「美穂さん、話があるから席を外してください、それから部屋を出るときにXRをオフにして戻してください」と言う。

美穂が会長に向かって「会長さん、わかりました」と言い「この後、先生の診察もありますから会長さんをあまり疲れさせることがないように気を配ってください」と言う。

ナース美少女美穂が魔法の杖を持つとかわいい声で一振りして
「元の部屋に戻れ!私も元に戻れ!」と魔法の言葉を唱える。

すると、丸木小屋も井戸も小鳥も花も森もすべてが次々に消えていく。

そして後に無味乾燥な窓が一つの病室になり会長がベットに寝ている。

ナース美少女美穂もコスプレから通常のナース服になった。
さらにスレンダーな美少女は小太りな40代の中年の女に変わっていた。
女は無表情で顔は艶がなく茶褐色から灰色い近かった。

二人はナースの変貌に驚いたが、メタバースのアバター効果だったということを理解した。
その中年女は声も太くしわがれた低音で二人に挨拶して出て行った。


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