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作品名:ネオ・反復の時 作者:くーろん

第10回   父の回想4
大学から戻ると父の会社の担当者から連絡があり、会社に来てほしいということだ。

「やった!本当になった」と零人は喜んだ。

心の中に不安が呼び込んた居座っていた疑心暗鬼がわだかまっていた重い気分が張ったスクリーンが視界に垂れ込むように蔽っていたのが一斉に取り外され、差し込んで来た光により事物が鮮やかな光沢を取り戻して行った。
気分的状態性の変化が彼の現存在に世界内存在の中で最初に一羽の鳥が遠くに飛び立つ姿を見せた。


会長室を零人が訪れるとか杖を持つ父親と傍に社員の若い男と女が二人いた。
その女子社員の鮮やかな金髪に零人は魅かれて面食らったが、男子社員を見て驚いて「斜人じゃないか」と言った。
その男子社員がニコリとすると、父親が「平田斜人と知り合いなのか」と言った。
立っていた父親がよろめいて杖を突くと斜人が「会長、お座りになりますか」と手を差し伸べたが、「いや、まだ立っていよう、ブラインドを下ろしてくれないか」と言った。

斜人がブラインドを下ろして室内照明を入れると、父親が零人に「この二人がこれからのお前の面倒を見てくれると紹介すると金髪の女子社員が「藤谷二コラです、よろしく」、と斜人が「もう挨拶は済んでいるけど、零人さん、いや社長、よろしく」と言った。父親は三人の表情を見ていて「この二人から社内外のことを教わって、きっと後でお前の手足となって動いてくれるだろうから。
ここでワシが言えるのは二人と仲良くやってくれだ」と言った。
零人が「ありがとう、よろしく」と言った。

零人が帰るとき、父親が見送りたいと言ってビルの玄関まで斜人と二コラと連れ添って降りてきた。
零人が別れの挨拶をして背を向けて歩き出すと父親が玄関でずっと立って見送っていた。途中で零人が振り返ると父親が片手をあげて振った。彼の姿が小さくなりやがて曲がり角で見えなくなった。
父親が「あいつには一つ重大な事を言ってなかったが、果たして大丈夫だろうか?」と心配そうな顔をした。
二コラが「私らにお任せください、大丈夫です」
斜人が「きっと、彼はやり遂げられます」と言った。
父親が二人の言葉にうなづく。
「よろしく頼む、外に出るのは久しぶりだ、今日はいい天気で空気がいい」と言った。


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