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作品名:反復の時 作者:くーろん

第99回   99
スカイラウンジの高層ビルの一階エントランスの自動ドアが開いて外に出るとクリスマスの夜だった。さきほどの雷雨で道路が濡れていた。

高層ビルの大通りから信号を渡ると、踏切の前で通り過ぎる電車の前で室人は可奈子と並んで立った。それから二人は遮断器が上がると一つ、一つ、線路の上を浮かれ足で渡って行った。
線路を越えると人通りが少なくなり細い裏通りを歩いた。室人は彼女をホテルに連れ込むことにした。日をあらためて昼間にシテイホテルに行くことも考えたが、この夜を逃すことができないような気がした。彼女も彼に従ってついて来ているこの時を逃すことはできないと思えた。

一つ目のホテルは満室だった。室人が「残念だ」と言って彼女をチラリと見ると可奈子の顔が赤らんだ。
その時、可奈子からの匂いが彼を誘った。柑橘系の淡い匂いがエメラルな香りに包まれれていた。可奈子の服と相まって、彼の鼻から抜けるように刺激したので、彼女の話の実存的重みから彼を解放してくれた。

二つ目のホテルも満室だった。室人が「残念だ」と言って彼女をチラリと見ると可奈子の顔が赤らんだ。
空を見ると星が出ている。この裏通りの雰囲気とかけ離れた夜空の星。室人は彼女と今そこに向かって行こうとしている。

三つ目のホテルも満室だった。室人が「残念だ」と言って彼女をチラリと見ると可奈子の顔が赤らんだ。
どうやら、クリスマスの夜、ホテルはどこも満室で空室はないようだ。

室人が諦めかけたときに、薄す暗がりの中に古いホテルの前に来た。門が崩れかかって、前庭には草が茂っていた。よく見ると塀に空室ありとなっていた。
この暗い不気味なホテルがいいのか迷ったが、よく見るとクリスマスの飾りのイルミネーションランプが点滅していた。それを見て笑う可奈子の眼に点滅が反射しているのを見て、彼はこのホテルに決めた。
遮光窓ガラスの受付の周囲は暗く陰気さが漂っていた。その暗い陰気さは不倫やら売春などの背徳そして薬に関連した犯罪にも源を発しているように彼には思えた。しかし、入口の窓のクリスマスの飾りのランプの点滅が暗い陰気さに何とか必死に抵抗していた。そのささやかな抵抗が二人に不思議な秘密めいたものを感じさせた。
ホテル料金を窓ガラスの下に置くと、部屋番号のついた鍵が無言で出され、痩せた骸骨のような手が一瞬見えた。二人は近くのエレベータ二階へと上がって行った。

部屋はゆったりしていて小綺麗に整えられていた。ダブルベッドが置かれていた。

彼女が先にシャワーをすると言って浴室へ行った。
シャワーの音がして終わって出て来た可奈子はタオルを肩にかけていたがバージンベルトを着けている他は全裸だった。

そのときにはじめてバージンベルトを装着している彼女を見て室人は驚いた。
バージンベルトに小さなLEDランプがたくさん仕込まれていて点滅していた。点滅には組み合わせがあるようだった。

彼女が「お先にシャワーしたけど、シャワーしたら」と言った。

彼が「後にする、先にきみのそのバージンベルトを外したい」と言った。

彼女がイラッと言う顔をしたが返事が無かった。

それから、タオルを肩にかけたままレースクイーンみたいなポーズを取って見せて、
「じゃあ外して」と言った。

室人はバージンベルトを調べて外そうとしたが外れない。外し方がわからない。

彼女が「早くしてよ」と言う。

室人が何とか外そうと引っ張ったりすると彼女が「痛いでしょう」と怒る。

でもここで止めるわけにはいかないので室人がベルトを弄り回していると、彼女が「痛いでしょう、早くしてよ」と責めるように言葉を浴びせる。
ハートのエースが出て来ない、ハートのエースが出て来ない、でもここで止めるわけにはいかない。
ついにパスワードを挿入する小さいデイスプレイがあることがわかったがパスワードがわからない。

「ちょっと待ってよ」と彼女が言って室人を押しのけると彼女はベットに脚を組んで座る。それから、可奈子はテーブルの上の自分のバッグからクッキーを取り出すとパクリと食いつく。別の1つを取り出して「お一つどう?」と彼に勧める。室人はそれを受け取る。すると可奈子が「キャッシュで1万円すぐにちょうだい、早く」と言う。
室人が驚いて「なんでクッキーが一つで1万円だなんて?」と言う。
可奈子が「じゃあ5千円、千円でもいいわ」と言う。

バージンベルトのLEDが不思議な点滅をする。その点滅のキラメキが読めない。室人は途方にくれる。

その後も強硬に断固として千円を払おうしない室人に可奈子は呆れたように、「もういいわ」と悲しそうに涙をぬぐう。
それから、ベッドから立ち上がると、タオルを肩から外した。彼女の乳房が見えた。彼女は天井を仰ぎ見るとタオルで髪をクシャクシャに掻いた。それから、そのクシャクシャの髪の顔で室人を見ると「もう帰る」と言った。
室人は唖然としているだけで彼女に従うしかなかった。

外に出る。可奈子と並んで歩く。可奈子とは話すこともない。室人は何か言わねばという焦りの中にいた。でも言葉がない。

気が付くと遮断器の踏切の前まで来ていた。二人で電車をやり過ごす。遮断器が上がると冷たい一つ、一つ、線路の上を歩いていると彼はなぜか自分の不甲斐なさに泣けてきた。

線路を渡り終えるとすぐにタクシーを拾った。彼女に家まで送るよと言うと一人で帰るからいいと言った。

彼女のタクシーを見送って一人で駅のほうへ向かうと雪が降り始めた。駅前で歌っているクリスマスソングも聞こえてくる。

最初の聖夜 「First Noel、、Noel,、、Noel,、、Noel、、」
しかし彼には「No Way、、 No Way 、、No Way 、、No Way、、」と空しく心に響く。まさに、前に道はない、解決の方法はない、絶対無理、と思えるのであった。それでも何か言わねばならない。
室人が「白鳥さん、、、、、今日のことに懲りずに、、、、これからはぼくと兄妹のような関係でしばらくいてほしい」
可奈子は彼の言葉には応えなかった。


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