20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:反復の時 作者:くーろん

第96回   96
街はクリスマスイブ一色に彩られていた。
室人はショッピングモールが交差するプラザに来て、隅の柱によりかかって、中央に飾られたクリスマスイルミネーションを一瞥しただけで、手元の文庫本のフロイト精神分析学入門の夢判断の箇所に目を落とした。先日見たあの夢のことが気になってこの本を読んでいた。
しばらくして人通りがやや滞ると、演奏が始まりイルミネーションプラザ全体にエレクトーンの音色が響き渡った。
プラザに据えたエレクトーンでクリスマスソングを弾く白いドレスの可奈子の姿が見えたとき、室人は久しぶりに見る彼女に不思議な感覚を覚えたが、彼のこれまでの彼女の印象へと戻って行った。

演奏が終わって人通りがもどると、向こうに彼女が一人で立っていた。

「今日は来てくれて本当にありがとう」と可奈子が言った。

「なぜ何度も電話しても出てくれなかったんだ、ずっと連絡を執ろうとしていたのに」と室人。

彼女は彼の言葉に「、、、ごめんなさい、、」とうつむいて言った。

それから「一緒に来てくれない」と言って室人を促すとイルミネーションプラザの近くの高層ビルに向かって歩き始めた。建物に入るとエレベータで最上階に行った。

ドアが開くとクラブラウンジモアがあった。
モアを貸し切って二十人ぐらいのパーテイが開かれている。
彼女の音大の仲間も来ていて、今日の演奏会のささやかな打ち上げ会をしているようである。今日は終日、彼女を最後に何人かの音大生がプラザでエレクトーンの演奏をしたようである。彼女が何人かの女友達とうれしそうに話している。

室人は壁際に立っていて、ボーイの差し出すトレイからシャンペンのグラスを取った。グラスを持ち上げるとシャンペンに入った大きな赤いチェリーがボトムに見え、グラスの向こうに彼女の姿が泡とともに見えた。
彼女は女友達にぼくのことを話しているようだった。
一人の女友達の声が大きかったせいで、「あの人は誰、、、、、」という言葉と、「私の彼氏と言って、、、、私のフィアンセ、、、、」という彼女の返事が聞き取れた。

室人はグラスを一気に飲み干すと、近くのトレイにグラスを置く。
その時に彼女が来て、「ごめんなさい、つき合わせてしまって。どこか静かな所でこれから話しましょう」と言った。
室人の後について来る彼女が「じゃ、皆、お先に失礼、メリークリスマス」と言っているのが聞こえた。

二人はモアの貸し切りパーテイ会場とは反対側のラウンジに行った。
素晴らしい夜景が眺望される窓際のテーブルに二人は座った。
窓からクリスマスナイトの街の夜景が見えた。港も見えて遠く海も広がっていた。
外を見て彼女は無邪気な少女のように「うあ、、、きれい」と言った。
室人が、「きみの今日のエレクトーンの演奏も本当によかった」と言うと、彼女は、それに応えて枯れのほうを見ることなかったが、少し顔を赤らめながらもずっと外を見ていた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 17254