翌々々日の夜、帰宅後に室人が白鳥さんのお宅に電話した。 可奈子の母親の白鳥京子が電話に出た。 室人「初めまして、谷田貝室人です。お嬢さんの可奈子さんとお見合いしています」 京子「ああ、谷田貝さんですね」 室人「可奈子さんはいますか?」 京子「可奈子はいません。引っ越してから時々来ますが、今日は帰って来ないけど、明日来るとか言っていました」 室人「ぼくのことは何か言っていましたか、結婚したいとか」 京子「可奈子からは何も聞いていません、何も言いませんから、私も聞きません」 室人「なぜですか?可奈子さんのことが気にならないですか?」 京子「私が言っても変わらないでしょう、娘の幸せを願わない親がどこにいますか、早く、娘が結婚してほしいと思いますよ。私は主人と二人で生きていきます。子供に頼って子供の人生を台無しにするような弱い親ではありませんよ」 室人「当然でしょう」 京子「それで、貴方はどうしてほしいと言うのですか?」 室人「ぼくは彼女と結婚したい。だから、彼女の気持ちを知りたい。彼女に伝えてください」 京子「わかりました。明日、可奈子が帰ったら聞いてみます」 室人「ありがとうございます。では、明日また電話します」
翌々々々日の夜、帰宅後に室人が白鳥さんのお宅にまた電話した。 室人「こんばんは、谷田貝です」 京子「白鳥です。可奈子は今日は来られないという電話がありました」 室人「それで、電話でぼくのことを話していただけましたか?」 京子「貴方から電話があったということは伝えました」 室人「それで彼女は何と言っていましたか」 京子「貴方が結婚したいと言っているのは知っていると言いました。貴方が電話を待っているのもわかっていると言いました」 室人「でも、電話をしてこないのはどうしてですか?何を迷っているのですか?ぼくは可奈子さんがどうしたいのか知りたい」 京子「貴方のことで迷っているとは言いませんでした。それで、私も娘にお返事するのであれば早くしたほうがいいと言いました。可奈子は、わかっている、わかっている、と言いました」 室人「では、どうすればいいのですか?このまま待ち続けるしかないのですか?」 京子「今週末までには連絡が取れると思いますから、日曜に電話してください」 室人「なぜ連絡が取れるのですか?今週末までには来ないかもしれませんよ」 京子「何となくそんな気がします」 室人「そうですか。では、僕は今日はお母様の言うことを信じて待つことにします」
そして日曜日の朝になった。 室人は夕方に電話しようと思った。日中は街を散歩したが、少し雨が降ったり止んだりだった。本屋にも行った。 夕方になり帰宅した。叔母が居間にいた。
叔母「白鳥さんのお宅には電話しましたか?」 室人「まだです。これから電話しようと思う」 叔母「今日、お仲人さんから電話があったけれど、先方からは返事はまだないと言っていました。私はこちらからお断りしたほうがいいと思うけど、貴方の気持ちもあるので、お仲人さんにはまだ返事はしませんでした。でももう次に聞かれたときはきちんと返事をしたいと思いますからね」 室人「わかりました」
室人が居間を通り過ぎようとしたときに、叔母が室人にレコードをかけるように頼んだ。 諏訪根自子の弾くストラデイバリウスの悲しいバイオリンの音色に乗せてセレナーデが流れた。 室人は2階の部屋に階段を上がる。携帯電話を取り出すと白鳥京子に電話した。 京子「今日、娘が家に来ました」 室人「それで、彼女は何か言っていましたか?」 京子「貴方のことを話しました。貴方が会いたがっていることも言いました。でも可奈子はそれには何も言わないのです」 室人「それでは、僕はどうすればいいのですか?今日も叔母やお仲人さんからどうするのかと聞かれています」 京子「私にもわかりませんが、娘を見ていて思うには、貴方がもっと可奈子が結婚したいと思うようにリードしてもらえないかということです。可奈子が前向きになれるように室人さんが努力すればよいということです」 室人「彼女の気持ちと高めると言っても、電話連絡も取れず会うこともしてくれない現状でどうすればいいと言うのですか?」 京子「私にもそれはわかりませんが、今日可奈子が帰る時に言っていましたが、今週金曜の夜に秋のクラッシックイベントがありそこでピアノを弾くことになっていると言っていました。貴方はそこへ行けば可奈子に会えると思いますよ」 室人「お義母さん、ありがとうございます。是非そこへ行きます。そして彼女と話し合ってみます」 京子「頑張ってください」
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