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作品名:反復の時 作者:くーろん

第92回   お見合いについて叔母と話す
室人は研修から帰って以来毎日のように携帯で可奈子に電話した。
しかしいつも繋がらなかった。
最初は彼女は忙しくて電話に出られないのかと思ったりしていたが、やがて彼女は電話に出たくない、室人にはもう会いたくないから電話を取らないようにしていると思うようになって行った。
しかし、彼女の気持ちを何とかして知りたいという気持ちが高まって行った。そうだ、これは縁談、だったら仲人さんに問い合わせてもらうことができる。

室人は2階から居間に降りて行った。
叔母が椅子に座って日記を書いていた。老いた叔母の夜の日課である。

室人が叔母に「白鳥可奈子のことを大変気に入ったので是非結婚したい」と言った。

「それは良かった。それで先方のお嬢さんは何って言ったの?」と叔母が聞いた。

「それが研修から帰って来て以来まったく電話で連絡が取れないんだよ。ぼくは彼女の気持ちが知りたい」

「電話が繋がらないというのは、室人さんと結婚することを迷っている、つまりあなたとの結婚に先方はあまり気乗りしないということではないかしら。あるいは、この縁談のお話をお断りして無かったことにしたいけど、室人さんに遠慮してすぐに言い出せないでいる、どちらかだと思うけど。とにかく、この件は私が間にいるお仲人の友達に聞いてみる」と叔母が言った。

「ああ、叔母さん、お願いします。ぼくは白鳥さんの気持ちが知りたい」と、室人はこれで可奈子の気持ちがわかると思うと同時に彼女はお仲人を通してやんわりと婉曲的にお断りしてお互いに心が傷つく思いをしたくないのだろうと思ったりした。

翌日夜に室人が帰宅すると叔母が居間に座って日記を書いていた。
叔母は何も言わなかった。室人がお仲人さんに電話をしたのか聞いた。

叔母が「電話したら、先方から何も縁談のことで言って来ている事はないとお仲人さんは言っていました。それで、お仲人さんに先方に聞いてもらうように頼みました」と言った。
室人が「ぼくの気持ちは変わらないからと再度伝えてください」と言った。

叔母が少し言葉をためらった後に「あまり期待しないほうがいいかもね。先方のご両親にしても結婚にすごく乗り気だったらお仲人さんを通してもっとこのお話を進めてくださいと言って来るのではない。それが無くて娘のお見合いの話を放っておくというのは軽く見ているということではないかしら」

室人は叔母の話を聞いて愕然とした。

翌々日夜に室人が帰宅すると叔母が居間で座って日記を書いていた。
叔母が室人を見ると、「さきほどお仲人さんから電話があって、お仲人さんが先方のお母様と話したそうよ。そうよ。お母様の話では、お嬢さんの可奈子さんは先週引っ越しをして独りでアパート生活を始めたそうよ。最近ほとんど会っていないそうで、時々、お嬢さんが突然にやって来て、アパートで使いたい物があると言って自分の部屋に捜しに来るぐらいだそうよ。彼女はピアノの仕事もあるので以前から家を出て自活したいと言っていたそうよ」と言った。

室人「ぼくはその話はまったく知らなかった。家を出るのは結婚してからでもいいのではないか?なぜ今なんだ?それで、この縁談はどうなるんだ? 破談ということですか?」

叔母「お仲人さんの話では、お断りして破談にする気持ちは先方のお母様にはなく、お母様としてはこの縁談がうまく言ってほしいと言っていたそうよ」

室人「それで、彼女は何って言っているのか?」

叔母「お嬢さんからお母様にこの縁談を断ってほしいという話はされてないそうよ」


室人「ぼくは知りたい。なぜ彼女がぼくの電話に出ないのか?」

叔母「室人さん、お仲人さんが言っていたけどこの縁談はこちらで断っても構わないと言っていました。最初から、先方のお嬢さんは一人っ子だったし、やはり嫁に出すとなると親としては躊躇すのかもしれません」

室人「でも、白鳥さんのお母さんは気に入っているのでしょう」

叔母「先方のお父様は公務員とは言っても上級職のキャリアではないでしょう。ボロボロの公務員住宅に住んでいるのは、お金もないからでしょう。お仲人さんも家の格が釣り合っていないことは気にしていたそうです。でも家の格だけではないからある程度妥協しなけらばならないことはお互い承知の上の話です」

室人「ぼくはそうは思わない。彼女も僕も同じ中学校を出た中産階級だと思う」

叔母「だから、私は琴江さん(室人の母親)のやることは嫌だった。私は私立中学校に室人さんを入学させるように勧めたのに琴江さんが公立中学校がいいと言い張った」

室人「お母さんの話はしないでください」

叔母「そうね、琴江さんのせいで我が家の格が落ちているから、お仲人さんもその辺は良く知っていて白鳥さんの家ぐらいでも妥協しなければということで、この縁談を持って来たのでしょう。でもお仲人さんが断ってもよいと言っているのだから気兼ねする必要はない。もっと他の良家のお嬢さんを紹介したいとも言っていますしね」

室人は叔母の話に言葉に言い返すことはできなかった。
室人「それでも、ぼくは彼女の気持ちが知りたい」

叔母「お仲人さんが言っていたけど、自分には先方にこれ以上聞くことはできないから、お嬢さんの気持ちを知りたいのであれば、室人さんが白鳥さんのお母様に電話して聞いてみてはどうかと言っていたよ。」

室人「叔母さん、ありがとうございます。では今日は遅いので明日電話します」


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