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作品名:反復の時 作者:くーろん

第87回   87
今日はお見合いデートの日。
室人はムースを一噴きして髪にくしを入れるとバシッとタイを絞めスーツに腕を通した。
世界中の誰よりと思わず口遊みたくなるような天気もさわやかな快晴な秋の日。
バスは渋滞もない都心の大通りをスムーズに走り抜け予定より早く着いた。
待ち合わせの時計台の前にまだ彼女は来ていない。彼女はどのように現れるのだろうか。
室人は彼女と再会出会う瞬間の第一印象がどのようなものになるのか期待に胸を膨らませる。

その一瞬の瞬間が彼女と彼の今後のすべてを決定してしまうようにも思える。
だから、彼は心が軽いと同時に神経質にもなっていた。不安であった。

室人は改札口のほうを見ながら出てくる女の人を追った。
疲れたようなOLが一人出てきた。5分経過。彼女は来るのだろうか、ふと疑心がよぎった。
また一人女の人が出てきたが、ルックスはよいがふらふらした女が一人出てきた。

彼女は出てこないどうしたのだろうと思ったその瞬間、後ろから「遅れてしまってごめんなさい」という声がした。彼女は別の改札から出てきたのだ。彼女との再会の瞬間はそのように突然だったから何かを彼が決定する時間の余裕はなかった。

それから、これからどうしましょうと言うことになるのだが、彼女は彼に合わせながら横を歩き始めた。彼は彼女の歩みが自分に合わせているようでそれでいて完全に盲従したような歩き方でもなく、もちろん自分勝手でもないから心よく思えた。

「天気もいいし、近くの公園は紅葉しているので行って見ませんか」と室人は言った。
可奈子は軽くうなずくと「お昼のサンドイッチを作って来ました」と言って左手のバスケットと見せた。

地下通路から地上に出ると公園はすぐだった。
公園の入り口に風船売りのピエロがいて子供が2人風船を待っていた。
あのピエロは実は彼女の元彼で今ここで風船を売りながら、彼女と彼が幸せそうに通り過ぎていくのを見送ろうとしているという映画にでもなりそうな妄想を覚えたが、彼女が何の違和感もなく通り過ぎる様子を見て室人の妄想もそれ以上発展することなく潰えた。

公園に入ると確かに紅葉していていたが人は多くはなかった。
缶コーヒーを買ってくるからと室人が言って、その場に彼女を待たせて自販機のある一角に向かった。もどって見ると彼女が金木犀の花に顔を近づけて見ていた。その時の彼女の姿は純朴な少女のようでもあり綺麗だった。

彼女は昔と変わっていない。普通には中学生の頃の顔はまだ子供の顔から大人の顔に変わる過渡期であるので大人になると顔が変わってしまう人が多い。可奈子も大人顔になってはいたが、ぼくの知っていた頃の顔がそのままであり、あごや鼻などの骨格は確かに大人のものに変わっていたが面影はそのままであった。しかし、昔はもっと明るい笑顔もあったように思えた。そんなことを思い出しながら、室人のすでに忘れたはずと思っていた恋心がよみがえって来ては一つ一つ解凍されていった。

それから室人は可奈子と見晴らしのよいベンチに座った。彼女がバスケットを開けて、ハンカチを広げサンドイッチを取り出すとふたを開けた。何て小ぎれいに詰められたサンドイッチだろうかと室人は思った。彼女が紅茶も持ってきていたので、先ほどの缶コーヒーは後で飲むことにして紅茶をもらった。サンドイッチは玉子マヨネーズとパセリの小さなサンドイッチを一つまみ、しながら紅茶飲んだ。美味しいサンドイッチだ、久しくこんなに美味しいサンドイッチは食べたことがない、どうしてだろうと思いながら食べた。それから、玉子とパセリがよかった。パンもふっくらとソフトで耳をきれいに落としてあったので食べやすかった。それからストロベリーとブラックチェリーも美味しかった。

食事が終わると室人と彼女はまた少し歩いてから芝生に座った。彼女は片方の膝を立てて後ろに片手を着いて座ると缶コーヒーを飲んだ。日差しが少し強くなってきた。彼女は日差しを受けてリラックスしたようで太陽に向かって口を開いたときに歯ぐきまでむき出しにした。そこにエロチックな匂いを感じ、それが情欲を彼に感じさせたが、彼女を押し倒してキスするまでには至らなかった。
室人も缶コーヒーをすすりながら彼女に言った。「さっきのサンドイッチとても美味しかった、来週はぼくがご馳走をしたい」と。
可奈子は少し顔を赤らめながらも静かにうなずいた。


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