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作品名:反復の時 作者:くーろん

第85回   1992年
素粒子から地球のような巨大な物体まですべての物体は粒子性と波動性を持っている。
波動性とは波のことである。波とはエネルギーであり、人が朝起きて夜寝るまでの毎日も代謝エネルギーの波の振幅の繰り返しであれば、津波のように巨大なエネルギーを持ってすべてを押し流し破壊し尽くす波もある。
この世に起きる事象は様々なエネルギーのたくさんの波に満ち溢れている。そして波には必ずピークがあり、ボトムがある。

人が存在の意義を問う時、個人が自己の現在を見て思いは過去へそして未来へと飛ぶものである。つまり個人の時間性へと至る。
その他の存在の問い方としては自己と他者から成る国家の意義を問うというやり方もあり、やはり時間性へと至る。国家の時間性とは歴史のことである。歴史に個人が記録されるかどうかを別として、すべての人間は歴史的に存在している。歴史的時間性にも波はありピークとボトムが必ず存在する。

1942年に日本は大日本帝国として軍国主義大国としてアメリカに開戦してピークを極めていた。6月5日にミッドウエイ海戦で大敗北するまで無敵の空母艦隊を持って広大な海洋を支配すべく大陸に海に大帝国の建設に向けてばく進していたのだから確かに民族とか国家のエネルギーはピークにあったということだ。しかし、その繁栄ピークから3年でどん底のボトムに落ちて、残ったのは4つの島と周辺の小さな島々。大日本帝国は崩壊した。明治維新以来70年あまり、あまたの同胞が苦労して積み上げてきたものを敗戦によりすべてを失った。
大日本帝国は民族や領土と言う多くの国家矛盾を抱えていた。戦争することで帝国が新しいステージに至ることで国家矛盾が解消されることを目指したのだろうが帝国は逆に崩壊してすべてを失った。歴史的に見ると大帝国というのは崩壊するのはピークに至ったときにすでにその帝国内に内包されている矛盾で崩壊がすでに始まっていることが多々ある。大日本帝国もピークにあったときに矛盾で崩壊が始まっていた。だから無謀な戦争を無条件で始めた。そしてすべてを失った。

戦後、植民地を持たない日本は永遠に貧民国として戦前の帝国の生活レベルには二度と戻ることはないと予想された。ところが、この予想に反して、戦後復興そして経済成長、高度成長を経て半世紀で経済大国として新たなるピークに到達していた。
小市民階級の戦後の勤勉が1992年に新たなピークを50年後に作り上げていた。

その頃の就職は売り手市場であり、 半分大学のサークルの延長のようなお遊び的な仕事が時代の先端を行くと持て囃される風潮が起きていた。未曾有の好景気の中で皆がある程度お金が出来ることで最大多数の最大幸福が日本で初めて実現した。
しかし、1942年の大日本帝国が矛盾を抱えて崩壊の序曲が始まっていたように、1992年の経済大国日本も矛盾を抱えたバブルがはじけていた、経済大国の崩壊の序曲もその時始まっていた。ところで、社会が実感する崩壊は遅れてやって来る。ミッドウエイで空母機動部隊が惨敗した時にそれを本当に深刻に受けた者は国民にはいなかっただろうし、国内では情報が伝わらなかっただろう。実際に差し迫って大日本帝国の崩壊を国民が実感するのは本土空襲が始まってからだろう。同様に経済大国が1992年のピークから崩壊していくのに数年がかかっているしその後のどん底へ向かうボトムは現在に至ってもまだ見えていない。

谷田貝室人は経済大国がバブルのピークの頃に御多分にもれず大した苦労をすることなく文系出身であったが化学系の会社に就職した。
室人は会社に入ってよく会社の同僚と飲みに行ったときに経済大国になったという高度成長期の自慢話を年配の社員から聞かされたり、先輩から「そんなに働いて何か良いことあるのか?」と言われると、彼はしばらく考え込んでその答えを「働いても良いことはない」か「もっと自分のために働こう」にしようかと迷っていた。


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