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作品名:反復の時 作者:くーろん

第8回   帰り道に夏の星座
夏祭りの帰り道、室人は4人の女子と方角が同じということで一緒に帰ることになった。大通りから少し外れた住宅街の中を流れる川に沿った静かな裏通りだった。4人の女子というのは、川名アザミ、加山サナエ、C子、そして白鳥可奈子だった。

川の欄干から覗き込むとチカチカと光る点が3つ4つ見える。ホタルだ。その時、C子が可奈子の肩を見て、「あっ!ホタル」と言った。可奈子がびっくりしてキャーと叫んで、持っていた団扇で浴衣にとまっているホタルを掃い除けた。ホタルはすぐに川に向かって飛んでいってしまった。

道幅は5人並んで歩けるくらいはあった。室人は本当は可奈子と二人だけで歩きたかった。他の3人の女子が内心では邪魔に思えた。5人は並んで歩いていたが、川の近くが室人で4人の女の子がいたが、可奈子はホタルを避けたようで、室人の横にC子がいて、サナエ、アザミ、可奈子が並ぶようになった。可奈子に直接話しをすることはなかった。夜道は静かで人にも車にも行き交うことは無かったが途中で巡回中の自転車の巡査にすれ違ったくらいだ。女子は金魚すくいのときのときの話しをして笑い転げたりしている。
突然、C子が「あっ、流れ星!!」と言って皆の注意を集めた。他の3人が、本当、私見えなかった、と言った。見上げると夜空に夏を彩る星が見えた。室人が指差してあれが北斗七星、向こうにカシオペア座、そして白鳥座と言った。白鳥座と言ったときには暗に白鳥可奈子に自分が可奈子だけに本当は言いたかったという気持ちもあった。女の子たちが空を見上げてどこ、どこと言って皆で星を指差しあっている。

室人は可奈子と二人だけで夜空の星を見たかった。そして、二人の目の中に先ほどの打ち上げ花火の閃光が光ったように今度はお星様が一杯光っていることを望んでいた。室人はなぜキレイな型にこだわるか?人間は本質的にキレイな型にはまることを望んでいる。仕事を含め人間の活動の多くはキレイな型にはまるように日夜努力することである。キレイな型というのは古代ギリシャ人がイデアと呼んだ人間の理想の姿だろう。しかし、現実に存在している室人はキレイな型を求めてはいるがイデアではない。室人にとっては他者として存在している可奈子もイデアと言ったようなキレイな型それ自体ではないだろう。室人は可奈子にイデアを彷彿とさせるキレイな型にはまることに誘う。人間は型にはまることを好むが、同時に型にはまることを拒否したり抜け出そうとする傾向もある。型を離れた自分とは何者か?

この川には何本か人一人が通れるぐらいの橋がかけられている。最初の橋が来たときに、サナエが「じゃあここでさよなら」と言って4人に別れを告げた。しばらく歩くとすぐに次の橋がきてC子がさよならと言って橋を渡っていってしまった。こうして、今や室人とアザミと可奈子だけになってしまった。

室人は運命の女神が作り出す偶然に期待していた。ここでアザミがさよならすれば室人は可奈子と二人だけになれる。室人が待望していたキレイな型にはまることが自然の流れで実現することになる。キレイな型にはまるというイデアの実現は時間の中に存在する。時間の中で実現するということは次の時間にはすでに実現していないとも思える。イデアとはそんなに移ろい易いいい加減なものなのだろうか?いや、そうではない。時間の流れの中でいつでもイデアの実現が起きるということではなく、ある限られた条件がすべて満たされたときに瞬間的に訪れるということではないだろうか。では、その瞬間以外のたくさんの時間の流れとは何だろうか?無意味なものだろうか。

その時、次の橋が来た。アザミと可奈子が二人でさようならと言った。浴衣姿のよく似合う可奈子も室人を見つめていた。さらにアザミが今日は金魚ありがとうと室人に言った。残念だった。室人は二人が橋を渡っていくのを見送った後に拾った小石を一つ残念そうに川に投げた。


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