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作品名:反復の時 作者:くーろん

第71回   悶もんとした毎日
市ノ谷偕人と調香師が帰った後、室人は暗い実験室にもどっていた。
調香師がよいと言って偕人が持ち帰ったサンプルと同じものを室人は分析機器でその匂いを調べていた。
分析機器にサンプルを注入して気化した匂いを分離して一つ一つの匂いを嗅いでいく。
デイスプレイでピークが出そうになると検出出口に鼻を押し付けて匂いを嗅ぐ。この作業を繰り返しやっていく。一つ一つのピークが分子で固有の重さがある。その重さを精密に測定してその分子の構造を知ることができる。いい匂いとピークが一致すれば成功ということになるがなかなか難しい。室人にはあの調香師のようないい鼻は持っていない。

室人はしばらくして鼻が疲れて来たので機器分析を止めた。
それから、終夜インキュベーションするためにフラスコに採取してきたサンプルと抽出溶媒を入れてマントルヒーターで攪拌機をセットしていた。

その時に、助教の佐野が部屋に入ってきた。佐野は室人の暗い顔を見て先ほどの分析機器の結果があまりよくなかったのではないかと思ったが、黙っていた。
佐野は室人を最初に見た時から、コイツは失恋でもして人生に絶望でもしているように見えた。悶もんとしたものを抱えながら何が楽しくて生きているのかなと思った。

佐野が室人に結果がよくなかったことを聞いた後で、何もかもうまく行ったら神様を作らなくても人間は困らないだろうと思った。

それから、室人に向かって言った「谷田貝、オマエはストリップに行ったことはないだろう、当然、ソープランドにも行っていないだろう」。

室人は白鳥可奈子への思いで生きてきたのでストリップにもソープランドにも関心は無かった。性欲に無関心であったわけではなかったが、自分の外に直接的な性欲のはけ口を求めなかった。可奈子への思いが無意識にブレーキをかけていたのかもしれない。

室人が風俗には行ったことがないと佐野に言うと、佐野が「谷田貝は女にまったく興味がないわけでもないだろう、聖人君子でもないだろう」と言った。
室人がうなづくと、佐野が「今日はいい天気だ、オレがすとりストリップとソープランドに一緒に行ってやる。金もオレが出してやる」と言った。

室人は佐野の強引さに驚いたが、今日の結果もよくなかったのでストレスで悶もんとしていたので、一刹那の興味の気分転換になるのかなと思った。

室人が攪拌機をセットしながら、「佐野先生、わかりました。このインキュベーション装置のセットが終わるまで待ってください」と言った。


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