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作品名:反復の時 作者:くーろん

第62回   62
更衣室に入ると誰もいなかった。可奈子がドアノブを閉めた。
可奈子は持っていたラケットとミネラルウオターのマグボトルをテーブルに置いた。サナエも置いたが、マグボトルのホールダーはブランド品で、ラケットもそうだった。

可奈子がテーブルに投げ出されたサナエのラケットを見ながら言った、

「私のこと好きなんでしょう。だったら、そこで服を脱いで裸になってよ」

サナエはギョッとして言葉を失った。

「早くしてよ、私のことが好きならできるでしょう」と今度はサナエの顔を見つめて可奈子が言った。

「早く、、、、早く、、、早く、、、」と恥ずかしそうに迷っているサナエに可奈子が優しく媚びながら促した。

それでも恥ずかしいのか躊躇っているので、可奈子がひざまずくとサナエのシューズの紐を解き始めた。可奈子はサナエからシューズとソックスを脱がせた。シューズを揃えて置くと、ソックスを大切そうに丁寧に折りたたんで椅子に置いた。可奈子の仕草に少し安心したのか、サナエが服を脱ぎ始めた。可奈子が手伝いながら、サナエの脱いだ衣類も丁寧にハンガーにかけた。そして下着も丁寧に折りたたんで並べた。サナエは全裸になっていた。

裸のサナエは青白い少女の身体をしていたが、手足は長く白く、青い静脈が浮き立っていて、本当にカエルのようだった。こうして裸にして見ると難しい化学の本をいつも持ち歩いて、実験なんかして、難しい科学の話をしているリケジョも白日の下にはその身体は欠点に満ちた普通の人間であった。
その時の可奈子は、かって政治権力を掌握したボルシェビキズムやナチズムがインテリ層や言論人と言った連中を裸にして黙らせて相手より優位に立って見せた時と同じやり方を無意識にしていたのかもしれない。

可奈子は椅子に脚を組んで座ると、サナエに彼女のスクールバックを持ってきて見せてと頼んだ。すぐ近くのロッカーに行ってスクールバックを取り出す裸のサナエの姿を追いながら、可奈子は思った。サナエは弧を張ったような自然が与える美少女の身体の線は持っていなかった。自分のほうがプロポーションがよいと大いに自負を感じた。

サナエがスクールバックをテーブルに置くと、可奈子が見てもいい?と訊いた。
サナエがうなずいたのを見て、キーホルダーの付いたスクールバックを手に取った。
ブランド品ばかりである。パスケース、ポーチ、ペンケース、テイッシュ、折りたたみ傘、携帯、マスク、スケジュール手帳、勉強の一問一答のカード、そして化学の本が入っていた。ほとんどがブランド品である。可奈子は貧乏な公務員の娘である自分には決して買ってもらえない品々なのでうらやましくなった。サナエの父親は一流企業の役員であり家は裕福だった。サナエは御嬢さん育ちだった。

可奈子はサナエの持ち物を一つ一つを手に取って、羨望とあこがれで、これいいわ、と褒めあげた。あまりに、可奈子がまるで自分の持ち物のように馴れ馴れしく弄繰り回すので、サナエまでムッとなり反感を持つことがあったが何も言わなかった。
そして、化学の本を開いた。それは大学の教養課程で勉強する分子化学に関する洋書の翻訳本であった。こんな難しい本を読んでいるんだ、とサナエのことを感心した。
可奈子が小さな空色のノートがあるのに気づくと、これ便利でいいなあ、いいわ、いいわ、と欲しそうに繰り返して、媚びる目でサナエを見た。サナエがそれ上げるよ、と言うと、可奈子が飛び上がるように嬉しそうに笑って、まるで何かが吹っ切れたように見えた。
実は、可奈子にはわかっていた。サナエは自分が男子と付き合いをできる女子であることにまだ自信を持てないでいることを。ここで、サナエは可奈子に美少年になって思いきり煽ててほしいのだろうと。しかし、可奈子にとっては同性愛より異性の男子への意識のほうが強かった。
サナエが自分が女子としてまんざらでもないと言う気持ちにさせてあげるには見返りが必要だと。人間関係はすべてGive and Takeで成り立っている。相手にGive, Give, Giveばかりをしては自分が損をしていると思えてくる。逆にTake, Take, Takeばかりでは相手に何かしてあげなくていいのかと思えてくる。Give and Takeにいつも注意してそのバランスを取るように人は行動しなければ、その人との人間関係は必ずや破たんする。
サナエが可奈子が欲しがったものを与えたことで、可奈子はサナエの思いへ応える決心がついた。
可奈子は立ち上がり裸のサナエのそばに来ると、サナエに立つように促し、サナエの眼鏡を外しテーブルに置くと、サナエを抱きしめ彼女の唇にキスしてきた。突然のことにサナエは驚いたが、可奈子の腕の中で女子になって行く自分を感じながら満足を感じつつあった。

情熱的なキスがこのまま続くかと思われた次の瞬間に、可奈子が顔をそむけサナエを離すと、ダメ、、、、ダメ、、、、ゴメンなさい、これ以上は、と言った。

可奈子はやはり生理的に同性愛を受け入れることができない気持ちがあった。その不快感が彼女を止めた。そしてもう一つの理由があった。

可奈子はサナエとの気まずいその場の状況を変えたいように、風邪ひくよ、とサナエにタオルをかけた。そして、私が先にシャワーを浴びさせて、と小さな声で言った。そして、服を脱ぎ始めた。
サナエは可奈子が服を脱いでいくのを見ていた。
そして、裸になった可奈子を見て驚いて一瞬言葉を失った。

「な、な、なんで、なんで、そんなものしているの、、、、、それどういうこと?」。

裸の可奈子はバージンベルトをしていたからだ。貞操帯の一種だった。

可奈子は泣きそうな声で「私の身体のことは決して誰にも言わないで、お願い、約束して」。

サナエが可奈子の身体の秘密はだれにも言わないと誓うと、可奈子はワッーと泣き出した。
それから可奈子は泣きながら自分の身の上に起きた話を始めた。
それはハロウインの夜にあの館で起きたことだった。可奈子の身の上話を聞きながらいつしかサナエは思わずもらい泣きしてしまった。


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