冬の週末の晴れた日の午後、ボールを追いかける白いシューズの二人の少女がテニスコートにいた。可奈子の素早い動きが白いスコートを揺らした。 きついスマッシュをサナエめがけて何度も打ち込んだ。サナエが速い直球を返せないでいるのを見て、わたしを好きなんて、バカにしないで、ふざけないで、このリケジョの子、と心の中でつぶやいていた。
冬の低い太陽の日差しが建物から見え隠れしながら斜光を可奈子に投げかけられる。サンバイザーの半透明のアクリルのつば越しに感じる陽光に彼女は過ぎた時間が気になってきた。少し気温も下がってきて小枝も小刻みに震えるように揺れている。
可奈子がサナエにそろそろ終わりにしようと言った。二人はコート一杯に広がった黄色のボールを拾い集めた。最後にサナエがネットポストの影にあったボールを拾うとネット越しに可奈子に差し出した。サナエは中学の頃は小柄だったが、高校になり伸び始め、可奈子に追いつきそうになっていた。しかし、最近になって急に伸びたためか、小さかった身体からヒョロヒョロとモヤシのように長い手足が生えてきたという体型だった。 サナエはオカッパ髪のえらの張ったカエルのような顔をして眼鏡の奥の細い斜視だった。そんなサナエの眼差しを受けながら、可奈子は明るい少女の目をしてボールを受け取ると更衣室に行こうと白い歯を見せて笑顔で言った。
サナエは男子に女子として認められたいという思いがあったが、ずっと子供のように小柄で小さかったので男子と正面から向き合う自信が持てなかった。サナエは自分が女として価値ある者として生きるに値するかどうかを同性である可奈子に判断してほしいと思っていた。
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