校庭の木陰で可奈子は立っていた。ピンク色の封筒を持って樹にもたれていた。
もう12月だと言うのに異常に日差しが強く、初夏のような日々が続いている。 彼女の最近少し短くなったスカートからは長いスラリとした脚が樹の幹に押しつけている。可奈子はその手紙を読もうかやめようかと迷っている。
彼女の淡い栗色のショートカットの髪で自分の前に広がる枝をまっすぐに見た。 彼女の眼差しは一本の枝の一枚の葉に目をとめる。 彼女は長い腕を伸ばすと枝ごと葉をたぐりよせる。そして葉の裏を見る。
そこには孵化したばかりの毛虫がビッシリと整列するようにへばりついている。異常気象のせいで冬なのに間違って孵化したのだろう。 彼女は顔を近づけてまじまじとその毛虫を見てその幾何学的な形状に見入った。 それから、不思議そうな顔をした。昔、初めて毛虫の作り出す同じ形の小さな虫が規則正しく並んでいるのを見たときにゾクゾクと鳥肌の立つような今までに感じたことのない気持ちの悪さを覚えた。それが今はその感覚が起きない。
キモイとすでに感じなくなっている平気で見ている自己を見つめると最近自分に起きたことが思い出され、平気に思えることは自分が変わってしまったからだと思えた、落ち込んで泣きそうになる気持ちになってきたので、持っていた枝をそっと放した。
それから、片手に持っていたピンク色の封筒に書かれた名前を改めてチラリとみた。魔法少女ケクレと書かれていた。迷いを振り払うように手紙を開いた。
手紙には次のよう書かれていた。
ワルキューレさま
―好きですーと、アナタに会ったときはいつも心の中のボクがつぶやく。
廊下ですれ違った時、部活をしている時、帰り道で会った時、ボクの心がときめく。
アナタが一生懸命……スケートをしている姿、大好きです―――――。
谷田貝君や他の男子と話しているアナタの姿、大好きです―――――。
最初からアナタと両想いになれないことをアタシはわかっているのに
心の中のボクが大好きと言ってしまう―――――。
はじめて音楽の時間に別のクラスにいたアナタにあった。
ピアノを皆の前で二人一組で弾くことになって、
ピアノがダメなアタシにやさしく教えてくれたアナタを意識するようになりました。
それはアタシの中にいたボクでした。
ボクはいつもアナタの姿を意識して追いかけている。
でも、アタシがやめたほうがいいと言う。
でも、最近になってアタシは涙もろくなってきました。
自分が想われたい、アナタから想われたい。
アタシの気持ちわかるのならば、どうか応えてください。
魔法少女ケクレ
可奈子が手紙を読み終えると向こうから白衣姿の女子がこちらに歩いてきた。 加山サナエだった。サナエは可奈子がここにいることは知ってずっと彼女を見ていたのだろう。
可奈子はサナエと目線を合わさずに言った。「この手紙を書いたのは加山さんでしょう」。サナエは顔を赤らめながらうなづいた。
可奈子が言った「加山さんって、最近は部活でも遅くまで化学の実験をしたりしているし、受験勉強もやっているし、疲れているんじゃない」。
「今度、一緒に週末にテニスでもしない」と可奈子が友達を思いやるように言った。
サナエがうれしそうに笑顔をみせた。
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