爽やかな朝の空気が日差しを受けて穏やかに温められていく中、室人と可奈子はバス亭にちょうど来ていたバスの前方の入り口から乗り込んだ。 バスの乗客は少なかった。二人はバスの中央の入り口から2つ後ろの右側の席に並んで座った。可奈子は車窓から外を見る。 室人は、今朝は布団の中でデートに行きたくないと思っていた自分が嘘のように思えた。爽快な気分の中で、こうして彼女と並んで座っていることが不思議に思えた。こうしてバスに乗っていてなぜ自分は幸福感を感じているのかと彼は思った。バスに乗っていることでは無くこうして彼女と並んでいること、つまり産卵のためにつがいとなって川で並んでエネルギーをすべて使い果たして最後のクライマックスを迎える川魚のようなものであろうか。そう言えば、人も男女は結婚して寝室でベットで並んで寝る。なぜそうするかは人間も性的に制御を受けている動物であるからだろう。それは一般論だ、そんなことはどうでもよい、自分にとってのこの幸福感の起源はどこにあるのかと考えると、小学校の遠足の思い出かもしれない。 彼の思考とは別に、バスは緩やかな曲りくねった坂道を下っていく中、街路の景色が目まぐるしく変化して一眼レフの連写のように一瞬、一瞬、が彼の目に飛び込んで来る。車窓の彼女の美しい横顔が刹那的ではあったが、同時に室人に永遠への道が開かれていると言うかすかな予感を啓示していると感じさせたので、これから起こるであろう未来が希望を持って迎え入れるという気持ちになることができた。
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