20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:反復の時 作者:くーろん

第46回   文化祭の校内放送
人が未来に対して準備するときには、未来のある時点に対しての計画の中で努力が向かう要因を分析してそれに十分に対応できるように準備するものである。
しかし、どんなに準備され尽くしたものでも不確定要因を含んでいるものである。
不確定要因とは人の計り知り得ない領域に属している。しかし、人は知ることはできない不確定要因を直観で感じようとして、準備が行動に移される最後の仕上げとするものである。
不安という霧の立ち込めてまったく先の見えない自己の将来であったとしても小石を投げ込んでみればそこから何らかの反応があるものである。
その小石がまったく見当はずれなものであっても不確定要因という獰猛な大蛇の尻尾にでも当たってくれれば、大蛇が動くかもされない。
不確定要因と言う大蛇が動けばその波紋を感じることで不確定要因がどのような方向からのものであるか直観的に判断することができる。行動への切り口にこの判断は大いに影響を与える。用意周到に準備された計画と言うのは一種のイデアである。それはどんなに用意周到に準備されていても自分が頭の中に描くものであるイデアである限り未来の現実ではない。イデアと現実との間に必ずや相違が存在することを人はよく知っている。だから人は不安を感じる。自分が想定する世界と異なることが起こるであろうとする現実世界に不安を感じる。現実は得てして自分の思うようにはいかないものである。

文化祭の日は来た。
多くの人々が文化祭大ホール会場に集まってきた。演目が始まる前に可奈子は斜人が来ると信じて疑わなかった。彼はきっとこのイベントを成功させるようにやってくれると信じていた。やがて文化祭のイベントが次々と実演されていき、斜人のスケートボードの番が回ってきた。可奈子が司会をすることになっていた。
会場には全校生徒のかなりと他校からの見物者も集まっていた。可奈子はマイクの前に立つと演目を読み上げ斜人の名前を呼んだ。聴衆は静まり返り、斜人が現れるのを待った。しかし、斜人は出てこない。斜人はいくら呼んでも来なかった。可奈子は困ってしまった。そんな可奈子を見て、審査員長の先生が可奈子を呼ぶと校内に来ているかどうか校内放送でマイクで呼び出した。「平田斜人君、、、平田斜人君、、、演目が始まります。平田斜人君、文化祭大ホール会場まで至急きてください。」と再三にわたって放送した。しかし、彼のの名前を告げる校内放送が校内の至る所に響き渡った。斜人は現れなかった。審査員長の先生がこれはだめだ、次の演目に行こうとしたときに、「待ってください、もう一度私が呼び出しますから、きっと平田君は来ますから」と可奈子が言った。可奈子がマイクを取り斜人の名前を呼んだ。しかし、校内放送が空しく校内に至る所に流れるだけだった。審査員長の先生は腕時計を見た。場内ではざわめき出した。いつまで待たせるんだ、そのあとで、退屈だな、白鳥さんそこでストリップでもやったらどうだと言う嘲笑的な声までどこかで聞こえる。審査員長もざわついて浮き足だった会場をこのままにはしておけないと思ったのか、「来ないということは彼に何か急用があったのかもしれないよ、では次の演目に行くしない」と小声で彼女に言った。可奈子はなぜ来ないのと心の中で叫んだ。しかし、為すすべはない。
可奈子は肩を落とし下を俯いて自信を喪失してその場を後にした。背中に次の演目が始まり、聴衆が拍手しているのが遠くなるように聞こえた。
サナエはその状況を一部始終見ていた。自信喪失している可奈子をかわいそうだと思った。白鳥さんをこのままにはしておけないと思ったりした。夕方には文化祭最後のフォークダンスがある。可奈子とすれ違った時に最後までがんばりましょうと声をかけて励ますほかは何もできなった。

可奈子はもし、斜人が来ていてくれれば、あの演目を成し遂げた彼と彼女がフォークダンスを踊ることができたのにと思ったりした。そして今はそれも適わぬ夢となって潰えてしまったと思うと彼女は深く意気消沈していった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 17254