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作品名:反復の時 作者:くーろん

第45回   可奈子の3回の憂慮と配慮
高校文化祭は近づいていた。可奈子は今年の文化祭実行委員になっているので忙しくなり、斜人のやるスケートボードの演目のことが気になってきた。ところが、彼女は斜人はなぜかしら校内で見ることは無かった。出会いが無いので可奈子は斜人に会いに休み時間に彼のクラスに行くことにした。こうして、彼女は三度彼のクラスに行くことになった。

1回目の時は、興奮していた。休み時間になる前に胸がキューンとなる思いがしたので、これは恋の芽生えだろうかと、否そうではないと、自問したりして自分の方から行くのはどうかと言う迷いの気持ちがあった。しかし、実行委員になっていたので自分は行くことにすると心に決めた。そして斜人の教室に入って行った。そこに彼はいなかった。3人の女子生徒がいたので、斜人のことを訊いた。一人の女子が言った。校門の噴水の近くに斜人はいるんじゃないと。噴水に来た可奈子は穏やかな日差しの中で噴水の水音を聞きながらあたりの静寂に包まれた。
来てみると誰もいない、時折水音に入る小鳥のさえずりが長閑なメロデイを奏でるだけであった。
可奈子が帰りかけたとき、茂みにそびえる大樹の上から、「ぼくに会いに来たんだろう」と言う斜人の声がした。
可奈子が見上げると、大きな枝に斜人が寝そべっているのが見えた。可奈子が、文化祭での彼の演目の題名を尋ねに来たと言った。
斜人は傍らに持っていたノートに何かを書くと、一枚を紙飛行機にして風に乗せた。紙飛行機はゆるやかなそよ風に乗って一周しながら可奈子の足もとに降りた。
その紙飛行機を開くと“彩光と対影”と書かれてあった。

それから1週間して、2回目は焦っていた。早く彼との関係を何とかしなければならないと。可奈子が彼の教室に行ったときも3人の女子生徒がいたので斜人のことを訊いた。前とは別の一人の女子が言った。東校舎の塀の近くに斜人はいるんじゃないかと。
来てみるとやはり誰もいない、長くそびえる高い灰色の塀しか見えない。可奈子の頬近くを静かに糸を吐きながら一匹のクモが飛び去って行った。塀に留まるトンボの透明な翅が微風で揺れている。
その時塀の上から「ぼくを捜してここに来たんだろう」と言う斜人の声がした。
可奈子が声の方を見上げると斜人が塀の上に寝そべっている脚が見えた。可奈子が、文化祭での彼の演目の始まる時刻を告げに来たと言った。
斜人がわかったと言って上げた手が彼女に見えた。

それからまた1週間して、3回目に不安であった。彼は大丈夫かと疑いの気持ちが起きていた。可奈子が彼の教室に行ったときにも同じように例の3人の女子生徒がいたので斜人のことを訊いた。3人の最後の一人の女子が言った。屋上の給水タンクの近くに斜人はいるんじゃないかと。
来てみるとやはり誰もいない、広々とした屋上からは天気のよい青く澄んだ空と真っ白な雲が見えた。3機のジェット機が遠くからやってきて空高く細長い線状の飛行機雲を作りながら飛んでいる。ジェット機は何回か周回しながら大空というキャンパス一杯に航跡雲を描いていく。
その後に3機はサヨナラとでも言っているように1回旋回してみせると、南の空へ向かって飛び去って行った。遠くなる3機も数時間もすれば、珊瑚礁広がる紺碧の洋上を飛んでいるだろう。
「ぼくに会いにここまで来たんじゃない、今度は何の用だい」と言う斜人の声がした。
可奈子が声のほうを見上げると給水タンクの建物の上に斜人が寝そべっているのが見えた。
「別に用事はないけど、、、、、、」と可奈子が不安そうな声で言った。
「何も言うこともないのになぜ白鳥さんはここに来たの」と言う斜人の声が聞こえた。
「平田君がどうしているか気になって来たの、文化祭でのスケートボードの演目が成功するように応援したい気持ちで来たの」と可奈子が言った。可奈子は斜人に期待していた、期待を裏切ってほしくなかったから、わざわざ来たのだ。
斜人が起き上がると、彼女のほうに顔を見せると「大丈夫、大丈夫、心配は無用だ」と言って可奈子に言った。

こうして、斜人の笑顔を見て彼女も安心するのであった。


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