20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:反復の時 作者:くーろん

第44回   いとしのオーリーさま
可奈子が5人の嫌がらせでまさに転倒しかかったその時に、パークから続く階段の向こうから一人の男がリンクに飛び込んできた。「何だ、あのスケボー野郎は!!!!」と偕人は意表を突かれたように叫んだ。

その男はゴーグルを付けた高校生ぐらいの少年で、スケートボードが包囲円に着地するや、ジグザクに波を打つように5人の作る包囲円に接続して割り込みを繰り返した。
あのスケボー野郎を早く包囲円の接続領域から叩き出せ!!!と偕人が5人に合図を送った。5人は偕人の命令をとあせりを感じると包囲円周の接続領域でのスピードを猛烈に加速させた。

しかし、ゴーグルの少年は接続領域から離脱して斜面クランプに向かい加速を得ると接続領域に貫通した。さらに別のクランプへと登り詰めると水平オーリーから斜めオーリーへと転換させて接続領域へと向かいチクタクで滑走して5人の進路を妨害した。こうして、見事なオーリーの滑走で5人の包囲円を攪乱した。

ついに、包囲円を作っていた一人の男が包囲円周での方向バランス感覚を失い転倒して脱落した。最初は可奈子はこのゴーグルの少年の出現をただ唖然として見ていたが、彼がスケートボードで彼女の前に作られた包囲円の一角を壊したのを見て突然の救世主の出現に救われたような気持になった。さらに次の一人も転倒して排除されていく。素晴らしいオーリーだ。やがて最後の一人も転倒してしまい、5人はその場を離れると大木の木陰にいる偕人のところへと引揚げてきた。

「チエッ!しくじりやがって、どいつもこいつも獲物に逃げられた間抜の禿鷹みたいな面下げてノコノコもどって来やがって、、、、今すぐに消せろ、、、この役立たず下郎!!!この役立たず下郎!!!」とメンツをつぶされて激高した偕人が5人を激しくどやしつけるように怒鳴った。

偕人には誰だかわかっていた「あのスケボー野郎、空かしたまねをして俺をなめやがって、この仕返しは必ずするぞ、覚えていろ」。

5人が退散してパークに平和がもどった。場外に退避していた人々がもどって来た。
それを見るとゴーグルの少年は立ち去ろうとした。その少年の後ろで可奈子の声がした。
「あなたは誰、何か言ってよ」。可奈子の心の中で乙女チックな気持ちが高まっていた、何て素晴らしいオーリーであたしを助けてくれたのかしら」。

少年は可奈子の言葉を聞くと一瞬ためらったが、スケートボードをターンさせると可奈子の近くに滑ってきた。
近くに来るとゴーグルマスクを外した。細い目をした細面、しかし軍艦の船首のように飛び出した額をしたクールな二枚目だった。
彼は斜めから投げかけるように言った「ぼくは平田斜人、君は白鳥可奈子さんだろう、同じ高校だよ、」。

可奈子は斜人のことは高校で遠くで見たことがあったが話したことはなく気に留めたことも無かった。

斜人「連中は退散したし、もういいだろう」。

可奈子が言った「平田君、今日は本当にありがとう、助けてくれて、私はただただあなたに感謝がしたくて引き留めたの」

「平田君のスケートボードは素晴らしい。ところで、来月高校の文化祭があるけど、平田君に是非イベントでスケートボードを皆に見せてはどうかしら。あたしは文化祭の実行委員をやっているから」と可奈子がまじめぶって言った。

斜人は最初は可奈子の申し出を断ったが、可奈子がどうしてもと斜人を褒め続け煽てたので、可奈子を見ていると気持ちが揺れてきた。

斜人を見るまっすぐに見つめる乙女チックな可奈子を見ていつもはすべてのことを斜めからしか見て来なかった斜人だったが、その冷めているが寂しい心にジーンとこみ上げて来る熱いものがあった。斜人は生まれてはじめて彼に向けられた可奈子の真っ直ぐなな願いを承諾した。

可奈子のほうは立ち去る斜人の後ろ姿を見送りながら、「いとしのオリーさま、、、いとしのオーリーさま、、、」と斜人に淡い期待を持つのであった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 17254