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作品名:反復の時 作者:くーろん

第43回   スケートパークに作られた包囲円
休日の午後、可奈子は高校の女友達とそのスケートパークに来ていた。ローラースケートやスケートボードができ休日は地元の中高生が滑りに来ているパークがあるということを聞いていた。彼女の友達も可奈子がローラースケートが上手だということは聞いていたので一緒に行って滑りたいということで付いてきた。

天気のよい休日ということもあり、中学生や高校生が十数人集って滑りに来ていた。可奈子たちも滑り始めた。

しばらく滑っていると5人の蒼く剃った坊主頭の灰色のジャンパーを着た大柄な高校生がスケートパークに入って来た。5人は兵士のように無表情で個性が感じられず、命令があればその場で躊躇うことなく人を殺しそうな雰囲気だった。そして、力強い滑りでリンクで横暴に傍若無人に滑って来た。

まるで皆ここから出ていけと言わんばかりに滑っている。このパークは我らの領土領海だと言わんばかりに皆に接近してくる。皆がぶつかりそうになり、転びそうになる。皆がその5人の高校生を怖がって次第にリンクの外へと追いやられる。

何て横暴な連中だろうか、このスケートパークは皆の遊び場であるのに、ここは自分たちだけの遊び場だと言い張っているように見える。そういう彼らの暴力的な迫力に折れたのかスケートリンクから一人減り二人減り可奈子の友達もパークから出ざるを得なかった。

残るは可奈子一人となった。5人の高校生は可奈子が一人だけになると可奈子を包囲するように取り囲んで滑り始めた。それから、可奈子が右へ滑ると5人も右へと移動し、左へ滑ると左へと移動し、可奈子が逃げられないように包囲した。

可奈子はやめてよと叫んだ。しかし、彼らは彼女の叫びには聞く耳を持たずに、まるで獲物を取り囲んだハイエナのように滑り続けるのであった。

包囲円が完成すると、次の瞬間に5人の一人高校生が猛烈なスピードで可奈子の行く手をすれすれにまっすぐに滑ってくると包囲円の反対側に入る。その時可奈子はもう少しでぶつかりそうになりヒヤリとさせられた。今度は別の一人が包囲円軌道から出ると彼女のすぐ後ろにわざとニアミスをかける。
こうして故意のニアミスが繰り返えされた。

可奈子は最初も強気になっていたが、やがて心の中では誰か助けてと思うようになっていた。
誰も助ける者はいないのか。皆このパークから排除されて周囲で指をくわえて見ていることしかできないのか。白鳥さんが危ないとパークの周囲で見ている友達もヒヤリとさせられる。さらに故意のニアミスの頻度は増え続けた。可奈子は前からの接近を避けるために後ろに身をかわした後今度は後ろからの接近を避けるために前のめりになったりした。

そんな様子を園内の木陰で冷やかに見ている男子がいた。市ノ谷偕人だった。可奈子を包囲している5人の高校生は偕人の息のかかった子分生徒たちだった。
偕人は最近日の出の勢いで地域の高校で勢力を伸ばしきている。彼に従う者は多い。この絶対多数であるという数の論理がすべてにおいて自分が優先されるという自負心を増長させていた。このスケートパークという遊び場を占領しようと企てたのも偕人の命じたことだ。
偕人は可奈子が転んだときがチャンスだったと思って見ていた。

彼女が転んだときに自分が彼女の所へ行き、上から見下ろしながら、自分の力がどんなに大きく偉大であるかを彼女に知らしめることができる。その時、可奈子は偕人にひれ伏して、彼を高校でいつも無視していたことなどの過去の数々の無礼を深く反省してお詫びて、許しを請うだろう。可奈子が自分から進んで偕人の彼女にしてほしいと彼の前で身も心も投げ出すであろう。

その瞬間に偕人はこのパークを征服した者になっているだろう。そんなことを夢想しながら偕人は可奈子を見ていた。
偕人が願うその瞬間が刻々と迫っていた。偕人が幸福の絶頂に立て世界の中心に立つ者になる瞬間。輝かしい栄光の未来の扉が開かれんとする瞬間。

こうしてまさに、可奈子を取り囲む状況は臨界点に達し限界を超えようとしていた。


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