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作品名:反復の時 作者:くーろん

第21回   方程式「非彼女」
校庭を100周した次の日に、室人は校舎の2階へ上がる階段を降りてくる可奈子とすれ違った時に彼女の顔色を見た。可奈子は冷たい表情に見えたが彼女の彼に対する気持ちが表情から読めなった。彼女は怒っていることを室人に悟らせないためにクールにしていたのかもしれない。
室人は零人が彼女とのことからは手を引くと言ってくれたので内心気持ちが良かったが、彼女と会ってこの瞬間に暗い気持ちになってしまった。ここで彼女に何かを語りかけるにはあまりにも彼女の気持ちからはかけ離れたことになるのではないかと思うと遠慮してしまった。それ以後、室人は彼女に後ろめたいものを感じるようになった。自分が彼女に思いを打ち明けることが彼女の望んでいることだとは思えない。そう思うと彼女を避けるようになった。

1ヶ月前に席替えがあり、彼女とは離れた席になっていた。彼女の席は後ろの方だったので室人は教室の前の出口から出入りして彼女とできるだけ顔を合わさないようにした。こうすることが今の自分にとっても彼女のためにも良いのだ、しばらくの冷却期間が必要だと室人は自分に言い聞かせていた。室人は今までにそして今の不思議なことにイジメを受けるということは無かったが今は孤独だった。零人とケンカをした例の男子4人とは小学校からの知り合いだったのでその後も時々話しをすることがあった。彼らが零人が最近あまり学校に来なくなったことで「ざまあみろ、」と言って室人の肩を持つように言ったときも何か素直になれずに黙っていた。「お前どうしたんだ、白鳥に肘鉄でも食らったみたいな顔して」と言われると「何でもない、どうでもいいことさ」と室人は答えた。

室人は彼女を避けていた。彼女を忘れたいと思っていた。すべてのことから彼女を想起させることを消し去りたいとすら思えた。今の彼にとっては「彼女でないもの」つまり「非彼女」に自分を集中させることが重要であった。彼は日常生活において「非彼女」であるものにささやかな喜びを感じることで生きながらえていくしか道はなかった。彼女のことを忘れて何かに1時間集中できたときに彼は自分を誉めたい気がした。「非彼女」「非彼女」「非彼女」と彼の生活において未知数のようにいたるところに置かれた「非彼女」より成る意識の複雑な方程式の中で彼は生きていた。


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