サナエが「ごめんなさい。白鳥さんに昨日の帰りに手紙渡したのだけど、今日彼女に会ったら読まなかったと言って突っ返してきたの」と申し訳なさそうな顔をして室人に言った。
それを聞いた瞬間に、室人は自分でない自分がそこにいるのを他人のように見ていた。 サナエが「彼女、女の子の気持ちってそんなものんじゃないと言っていた」と言うのを聞いたときにも映画の中の1シーンのように見ていた。それが自分だとはどうしても思えなかった。
しばらくして、サナエと話をしているのが自分であり、他の誰かではないという正気の意識がやがてもどってきた。こうして彼は自分にもどった。彼が求めていた本当の自分ではない自分がそこにいるのがわかった。その自分は今までの自分だが、希望を削がれたという意味で傷ついていることがわかった。
サナエが言った「白鳥さんって、見かけよりきつい子じゃないかと思う、谷田貝君にはもっと優しい子がいいんじゃないかしら」。
室人は過去のことを思い出していた。夏祭りのときのこと、帰り道で見た夜空、彼女は幻だったと言うのか。女の子の気持ちってそんなもんじゃないという彼女の言葉には何か自分のすべてが見透かされているようにも思えて何か手も足も出ないような気持ちにさせられた。
彼は自分の思っているものとは違っていると感じていたが、その現実を否定することはできなかった。今日は疲れた。明日考えよう。サナエに別れを告げてその場を立ち去った。
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