午後、室人はサナエを待っていた。理科室の前の廊下で。そして考えていた。
友達が来るのを待つ。
宅配ピザが来るのを待つ。
テストの日が来るのを待つ。
ゲーセンでつきが来るのを待つ。
大人になって酒とタバコができる日を待つ。
理想の人と出会う日を待つ。
旅行に行く日を待つ。
結婚する日を待つ。
子供が生まれる日を待つ。
そして、老いて死ぬ日が来るの待つ。
人間にはたくさんの「待つ」があるけど、「本当の自分を待つ」というのもあるんじゃないかと思えてきた。 たとえば、今の自分は本当の自分じゃない。 本当の自分はもっと幸せだ。本当の自分はもっと愛されている。本当の自分はもっと頭がいい。本当の自分は魅力的だ。本当の自分は金持ちだ。本当の自分は試験に合格している。など、など。 彼がなぜ本当の自分があると考えたかと言うと、彼女、つまり白鳥さんと彼が話をしたときに初めて自分が本当の自分になれるのではないかと思えるからだ。
では、今の自分って何。
本当の自分ではないことは確かだ。自分の望まない自分だ。望まないからと言って大嫌いなわけではない。今の自分は「本当の自分を待つ」自分と言うことだろうと彼は思った。
その時、廊下の向こうからサナエがこちらにやって来るのが見えた。 サナエは白鳥さんに手紙を渡しただろう。そして白鳥さんは彼女に何て答えたのだろうか。 サナエが彼の前で言う最初の言葉が彼を本当の自分にしてくれる扉が開いてくれることを願いながら、サナエが近づいてくるのを待っていた。
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