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作品名:反復の時 作者:くーろん

第103回   103
可奈子はその日の早朝の目覚めはよくない、体調が重く感じられた。先日は室人とのことで精神的ストレスが重なっていたのかもしれない。それとは違って、最近気分がすぐれないがよくある。昨日のサナエの部屋での自律神経の集まる器官への性行為が自分の身体のバランスを狂わせていることが彼女にはわかっていた。それで、気分がすぐれないときの自律神経失調の薬をいつものように飲んだ。可奈子は自分の身体が弱い精神を憐れんで同情しているのがわかったので、心の中でゴメンナサイと自分の自虐行為を身体に詫びた。
今日は仕事がある。天気もよい。さあ、起きて出かけよう。

可奈子が波止場に着いたときは正午過ぎであった。気分もすっかりよくなっている。
そのときすでに真っ白な船で開かれる貸切の船上ウエデイングに出席する着飾った招待客が乗船しようとしていた。
彼女も客と一緒に船に乗船すると、パーテイー会場に行き、置かれてある電子ピアノの前に座った。

会場はすでに招待客が集まっており、披露宴は立食パーテイーであり、招待客の歓談で騒然としていた。
客は、新郎新婦の親戚関係より、新郎新婦の友人関係、特に大学の同窓生と思しき客が多く招待されているようであった。
可奈子にも彼らの立ち振る舞いやマナーを見ていて、彼らが裕福な教養ある家庭環境に育った子弟であることがすぐにわかった。
そのとき、新郎新婦の入場という声が会場に響きわたると、可奈子が’結婚行進曲’をひき始め、新郎新婦が入場してきた。
花嫁は美しい人であり純白のウエデイングドレスがよく似合った。花婿もすらりとした長身の好青年であり、まさに愛の神が人間の運命を操作してこの世に存在させたようなお似合いのカップルであった。可奈子も羨望のまなざしで彼らを見ていた。

しばらくして、招待客が歓談しているときに、シャンパングラスを片手に持った一人の青年が可奈子に近づいてきた。
可奈子にはそれが誰であるかすぐにわかった。遠い過去の人、中学の同級生で転校生で半年一緒に学生生活を過ごした人、そして、彼女の初恋の人である、ということが。
「久しぶりだね」と男は言った。
「ええ」と可奈子が男のほうを見ると昔のように切り返すように応えた。

二人は偶然にここで再会したのだが、驚きを表さなかったのはおそらく、昔の思い出に語りかけるように再会した相手を最初に見ていたからであろう。

突然、男は思い出を払拭して我に帰ったかのように、新郎新婦に向かって、それから招待客に聞こえるように「こちらは、白鳥可奈子さん、ぼくの中学校の同級生です、今日は十年ぶりに偶然に会いました。
これも何かの良い縁ではないかと思います。彼女もきっと新郎新婦の結婚を祝福する曲をピアノで精一杯ひいてくれるでしょう」と言った。
新郎新婦が可奈子のほうを見て、新婦が優しい視線で微笑みながら可奈子に軽く会釈をした。
可奈子はそれに応えるように会釈すると‘この世の果てまでに’をひき始めた。

こうしてウエデングパーテイーは進行し、新郎新婦によるウエデイングケーキ入刀の時がきた。
可奈子は軽いイントロで持って‘スター誕生 愛のテーマ’をひき始める。そしてウエデングケーキへの入刀。司会者がカメラをお持ちの方は前へお進みになって撮影してくださいと勧める。新郎新婦の友人のカメラのフラッシュの光が次々と点滅する。可奈子は曲をひきながら二人があらためてこの日の主役であることが強調されるように一歩退いた視点から二人を見守りながらも祝福の気持ちを込めてメロデイを送った。

ケーキ入刀が終わりしばらくすると余興の時となる。
可奈子がステージのほうを見ると、さきほどの男が学生服を着て出てきた。
それから、この日のために新郎の大学の応援部在籍だった同期生も集まった。旗手が箱から団旗を広げ方などの細かい不文律の手順に従って出して旗を掲げる。応援部には旗を一度出したら何が起ころうと地面や床や机につけてはならない、地面に下ろすことは大変な恥とされる。箱から出したが最後、畳み終わって箱に収めるまで旗手は高く掲げ続けていなければならない。
掲げられたのは名門大学名が刺繍されている鮮やかな団旗である。男、(いや可奈子にとっては、彼と呼ぶべきだろう)、彼は応援部ではなかったが今日のために友人代表でリーダー役をしていた。
可奈子は彼らの男気にうっとりとして見ていた。
彼は新郎新婦の結婚と今後の結婚生活の応援する号令をかけると続いて団員が掛け声でエールを送った。

こうしてパーテイは進行し、船はターニングポイントをすでに過ぎて波止場へと向かった。可奈子も今日の仕事を無事終えたが、彼は同窓生との話しあうことで忙しいようで、それ以上彼と話すチャンスもなく元の港に停泊すると一人で下船した。


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