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作品名:カラス 作者:大倉進

最終回   1
 日暮れ時の茜空に、黒い集団が不気味にうごめいている。

カラス共だ。毎夜ああして山へ帰る姿を見ては、いい気がするものか。

朝になれば青空を束になって旋回し、
俺の出した生ごみの袋を「お宝、お宝、ざっくざく」と食い散らかす。

いや何、それだけなら構わん。
俺が町内会長に叱責される程度で済む。

不愉快なのには変わりがないが、相手は野鳥のカラスごとき。

俺は残念ながら人として生を受けたために、
翼をうごめかせて空を悠々と飛びまわった経験はない。

そのおかげか鷹に襲われず、トンビにも愛想を尽かされている。
雀が俺を恐れて近づかない理由がよくわかる。

一応、カラスとの知恵比べには勝てる自信があるつもりだ。

やれ最近のカラスは頭が良くなったなどと言っては、芸をする者まで現れた。
聞くところでは、足し算や引き算をやってのけ、宙返りまでする輩までいる。

「人様を喜ばせよう」なんて殊勝なことは思っておらぬ。

あれは、「はは、どうよ。俺は『カラスのくせして』一回転なぞして見せたら、
人間は「見ろ、カラスが芸をするぞ」と手を叩いておる。これしきで愉快になれるとは簡単なことよ」と思うているなどと言えば、俺はたちまち変人になってしまう。

しかしである。犬ころなら人に懐く習性もあろう。

従えば給餌され、「ほほぅ、うまいもんが転がり込んできたもんだ。それも食いたい。体を動かすなんてお手の物。では、つらいがちょいと待つか。かしこいかしこいとは何とも難しい言葉で犬の俺には理解できぬが、体をなでた人間は笑い、声もやさしい。こうしておる間にもそのうまそうな匂いがたまらん」と良く解釈してくれるやもしれん。

悪く言えばつくづく阿呆だし、純粋であるが可愛い。

それに比べ、カラスはどうだ。

「人間と知恵比べ」などと、農作物を荒らして歩く辺り猿にも似ている節はある。

猿は凶暴だが、カラスは一見凶暴ではない。「鳥」だからだ。

更には翼で「じゃあ、さよなら」と突如として中空へ舞い上がってしまう。

人里に住み着いて、人間様の食い残しをまんまといただいていく、不逞野郎だ。


俺がこんなにカラスを恨むのも深い事情がある。

おい、カラスよ。

お前、俺のうちの庭になっていた柿を食っただろう。
熟れてきて美味そうだったのに、全部食っちまいやがった。

俺は後悔した。
ああ、カラスにひと泡吹かせてやるために、
渋柿を隣に植えるべきだったと今更ひどく嘆いた。

俺が猿でもやりそうなことだのに、特、カラスに執着する理由はそれしかない。

人間であれば、くだらないかも知れんが日々の営みを思えば、
小さな幸せを踏みにじった罪は重いと同情してもらえよう。

そのあたり、カラスはにべもない。

畜生カラスごときに俺の楽しみを奪われるなぞ、かくいう俺は我慢ならん。

いつか、ない鼻をへし折ってくれる。

それまではせいぜい人をばかにして、
「お宝、お宝、ざっくざく」と苦労しないで生きていろ。

猛禽類に襲われない俺が、お前の影を踏む日も、そう遠くはなかろうぞ。


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