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作品名:韓国男子 作者:御美子

第8回   破滅への道程
「埼玉県警K署の鈴木と申します。失礼ですが川崎明子さんですか?」

「はい、そうですが何か。」

「キム・ドンホンをご存知でしょうか?」

「キム?・・・」

「日本名を塚田信輝と言います。」

「ええ、知ってますけど」

「この男が事件を起こしまして・・・。調べているうちに川崎さんのお名前が出てきたものですから。」

「そうですか。」

「お金を貸していらっしゃるようですが、いつごろからのお知り合いですか?」

「3年以上前からでしょうか。」

「例のお仕事つながりでしょうか?」

「まあそんなところです。」


私の反応が刑事のご期待に添えなかったのか

電話の近くに居るらしい塚田に

「お前が出てもしかたないか。」

と刑事が独り言のように言ったのが聞こえた。

こんな時何と答えるべきかとっさには思いつかなかったので

「出来ることがあればご協力します。」

というようなことを言って電話を切ったと思う。


塚田とはパートナーの店舗売却をきっかけに知り合った。

最初の電話での印象は物腰が柔らかく

そうと注意して聞かない限り日本人と変わらぬ日本語だったが

苗字に付く「つ」の発音で韓国人だと分かった。


パートナー不在時に店舗へ案内した時に会った印象は

線が細く神経質そうだがルックスは明らかに良かった。

その後一度飲みに行って以来会うことも無かったのだが

忘れた頃に執拗に電話を掛けてきたのでお金を用立てていた。

 
最初は、事業に失敗して実家に置いてきた一人娘に会えず

2人で遊園地にでも遊びに行きたいからとかいう理由だったと思う。

身の上話が長い上に娘の写メールまで送ってきた。

期日までに払わないと殺されるとかいう理由もあった。


ある時は盗品を処分する仲間に加わり

隠れ家で食事もままならない状況だが盗品を換金したら返すとか

最後には癌で余命半年なので生命保険が入ったら返すと言ってきた。


借用書と共に戸籍謄本や免許書のコピーが送られてきたし

実家の姉と称する女性の固定電話に確認の電話も入れた。

余命半年と言っていたのが年末で、警察からの電話は夏だった。


数日後、別の刑事から電話が入った。

「塚田についてもう少しお話を伺いたいのですが、どういったお知り合いですか?」

「友人と言うか、会ったのは3回だけですが。」

私はお金を貸すようになったいきさつを簡単に話した。

「お金を返してもらったことはありますか?」

「いいえ、生命保険で返すと言われ、まだかなとは思っていたのですが。」

「全くの嘘です。本人ピンピンしてますから。」

「ところで何の事件を起こしたんでしたっけ?前回聞きそびれたんですが。」

「殺人です・・・。6月でしたか。日本にいらっしゃらなかったからご存じないんですね。」

「・・・。」


適切な言葉は見つからなかったが特に驚きもしなかった。

東京で韓国式エステや焼肉店の女経営者が殺されたとか

塚田の出身地岩井市の川で男性の切断死体が見つかった

などというニュースを小耳に挟むたびに

犯人か犠牲者が塚田なのではないかと思ってはいたものの

詳細を確かめられずにいたのだった。

 
どこまで本当か分からないが

執拗に掛けてきた電話の内容から察するところ

人間として最低の生活をしていて

いつ犯罪を犯してもおかしくない状況だったと思う。

刑務所に居てくれる方が私も安心なくらいだ。


いや待てよ。

次の瞬間恐ろしいことに思い当たってしまった。

被害者は借金を断ったか借金を返せと迫った人あたりだろう。

だとすれば、事件が起きた頃日本に居たら

私がターゲットになっていたのかも知れないと。

 
                              −つづく−


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