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作品名:韓国男子 作者:御美子

第6回   入国拒否
初めての韓国旅行から戻って約2ヶ月だったか

彼はしばらく我が家に居候した後

例の裏情報誌だか以前の仕事仲間の紹介で

埼玉県八潮市のエステ店の雇われ店長に納まっていた。


店のオーナーであるママとの関係も気になるし

彼以外は風俗の女性従業員なので気が気ではなかったが

少なくとも週に1回は仕事が終わった夜中に出発して

朝方私の家まで来てくれていた。


そうこうしているうちに観光ビザの期限90日が迫り

再び私を連れて韓国に行くと言われた。

娘にはさすがに呆れられたが

惚れた弱みと彼を失うのが怖くて一緒に行くことにした。


今回は最初に彼の実家に寄ってお兄さんの車を借り

朝鮮半島の西側の更に小さな半島を中心に旅行した。

2人で韓国旅行をする様になってこの2回目までは

特に問題も無く彼も何とか日本へ入国できた。


しかしながら3回目ともなると

出入国管理局も黙ってはいなかった。

それもそのはず、2,3日韓国に滞在して

日本に90日近く滞在するのは明らかに不自然だ。


あの時も先に入国審査を終えた私は

外国人用の審査ブース近くで彼が出てくるのを待っていたが

直にいつもと違う様子に気が付いた。

彼は私に合図を送りながら係官と事務所へ行き

手荷物を受け取った後の私も事務所入り口近くに待機させられた。


彼と話すことは許されないまま

別の係官から彼との関係を詳しく聞かれた。

「何年頃どこで知り合いましたか」

「どういうお付き合いですか」

「ご実家に連絡してもよろしいですか」

というような内容だったと記憶する。

上の2つの質問には正直に答え

3つ目は私の両親には秘密だったので拒否した。


夕方の便で到着したはずだったが

成田空港発着便がなくなる時間まで足止めされた上

結局彼は翌朝の便で韓国に戻ることに決定し

その前に短時間会うことが許された。


あの時係官に文字通り泣き落としで

彼の入国を請えばよかったのかも知れない。

 
しかし、その時は自分でも驚いたことに

寂しいとか悲しいとかの実感も湧かないまま

抵抗らしきこともせず一人虚しく家路に着いた。


今回の旅行前に何店かのエステ店の店長をしたり

旅行直前に彼の店を作り地元の警察や

その筋の人達との小さないざこざにも巻き込まれたり

精神的に疲れたいたせいもあったと思う。

 
一人の係官が気の毒そうに

「麻薬所持など本当に悪い人も居るのに不運でしたね」

というような意味のことを言ったのが印象に残っただけだった。


数日して韓国に到着した彼から電話が入り

私が帰った後の成田でのことを聞いた。

あの夜、何人か同じ境遇の人達がいたようで

誰が何に使うのか食事代や警備代として

3万円払わされたとのことだった。

 
出入国管理事務所では毎日何人かの定員があるようで

その日の定員の埋まり具合で入国が許可されたり

拒否されたりすることがあるらしい。


しかし、今回は彼には申し訳なかったが正直ホッとした。

多分それは彼が自分の国である韓国では

悪いことが出来ないと確信していたからだと思う。

 
その時点ではまだ私自身が彼が残していった仕事の関係で

本当に悪い人間達と直接対峙することになるとは

全く考えが及んでいなかった。


                                 −つづく−


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