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作品名:韓国男子 作者:御美子

第5回   初めての韓国旅行
2003年8月最後の週末、成田空港付近の天気は悪かった。
 
成田発仁川行きの飛行機は台風の影響で

私たちの乗った便がその日の最終便になった。

この時1つでも遅い便を予約していたら

彼と韓国に来ることはなかったかも知れない。


私たちを乗せた飛行機は台風に追いつかれる前に

何とか仁川国際空港に着陸することができた。

彼が慎重に吟味してくれたらしい座席ではあったが

当然その日はどこの席からも上空からの風景は楽しめなかった。


彼は不満そうだったが

私は2人で旅行すること自体がとても嬉しくて

正直外の景色など気にも留めていなかった。
 

しかしながら、雨に煙る空港の全容がはっきりしてくると 

水がテーマだという白枠に青いガラスが特徴の仁川国際空港ビルが

昔大阪万博で見た巨大パビリオンのようで圧倒された。

入国審査を終えて空港ビルを一歩出るとリムジンバスは勿論

次々に来るバスと行きかう人々の喧騒にまた驚かされた。
 

彼が促すままソウル市内行きのバスに乗り

暫くは無味乾燥な高速道路を順調に走っていたが

漢江(ハンガン)を左に望めるようになった途端渋滞に巻き込まれた。
 
川沿いに片側5車線はあるかと思われる道路に

大半が黒の自家用車の群れも珍しかったが

殆ど全てが読めないハングル文字で囲まれるという感覚が

理解の手がかりさえないだけに英語圏よりカルチャーショックだった。
 

予想外の渋滞に彼はイラついていたようだったが

私にとっては目新しいものばかりで長時間飽きることも無かった。

彼もそんな私にこと細かに説明することは楽しんでいるようだった。


宿泊は2泊ともソウル市の南東に位置する

ソウルオリンピックの時に建てられたと思われる

その名もオリンピックパークテルだったが

チェックインの後ようやく部屋からの景色をゆっくり眺めたのは

いつもより長く愛し合った後だった。


彼とはいつも私の自宅で愛し合っていた。

実は付き合い始めて直にラブホテルと見かけるたびに

それとなく誘われたようだったが

彼が私とベッドインしたいと思っていたことに気付かず

彼を自宅に初めて泊めたときも別々のベッドに寝たのだ。


当時の私は夫を亡くして以来男性との肉体関係が無かったし

元々人に触られるのが嫌いだった上

夫婦関係でない男性とのメイクラブには抵抗もあった。


でも、自分でも不思議なことに彼には触れてもらいたいと思い

初めて家に泊めた時に私から彼のベッドに潜り込んだ。

付き合い始めて3ヶ月くらい経った頃だったと記憶する。


それ以後もラブホテルに行くことには抵抗があり

彼が夜中に仕事を終えて朝方私の家に来られる時だけ

一緒に寝ることが習慣になっていた。


話はオリンピックパークテルに戻るが

時刻は既に夜8時を過ぎていた上外は台風なので

今夜はホテルでゆっくりするのかと思いきや

江南区三成(サムソン)のCOEX(巨大複合ビル)と

東大門ショッピングモールを覗いた後に

予め電話してあったらしいとは言え

夜の12時近くにもなって

彼の実家にバスを使って到着したのだった。
 
 
当時実家には彼の両親と兄家族4人が住んでいたのだが

私はただの友達という立場でもあったうえ言葉も全く通じず

お互い勝手が分からないまま初対面を終えてしまった。

かなり遅い時間にも拘らず、いや最終バスもなかったせいで

彼の兄がホテルまで車で送ってくれることになった。
 

途中で大きな韓食レストランに寄ったのだが

夜中なのに客が普通に食事していることに驚いたり

彼のお兄さんを意識して

ご飯が入っている金属製の入れ物を持ち上げないよう

食事の作法に注意しながら食べたので

何の料理だったかははっきり覚えていない。


ただ、弟である彼が飲んだ缶ジュースを

私がためらいなく飲んだり

後部座席で仲睦まじくしている私たちの様子を

ミラーで観察する彼のお兄さんの姿が印象的だった。


翌朝はロッテワールド内の民族博物館に始まり

梨秦院(イテウォン)で皮革製品を買ってタクシーで移動し

南山(ナムサン)タワーにはケーブルカーで上った。

正に夢のような2泊3日になるはずだった。


帰途は午前中の便だったので早朝にホテルを出た。

月曜日の夕方からの仕事に間に合うよう旅程を組んだのだった。
 
心配していた彼の成田での入国審査も特に問題なく

成田空港付近の駐車場に置いてあった私の車で自宅まで戻った。
 
彼の黒のシルビアは私の家の駐車スペースに置いておいた。


そのまま仕事場に戻ると思っていた彼が私の家の前で

「しばらく一緒に居てあげるよ」

と言って一緒に家に入ろうとしたので

そんなことを頼んだ覚えのない私は一瞬言葉を失った。 

これは困ったことになったと大きな不安に襲われたのだった。

                      
                                    −つづく−


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