20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:韓国男子 作者:御美子

第4回   裏情報誌で繋がる人々
ある韓国人向け情報雑誌は日本に住所さえあれば

誰でも簡単に申し込めて無料で定期的に送られてくる。


無料なのだから当然の事ながら
 
その殆どがショッピングカタログで校正されていて

主に韓国料理レストランや韓国からの輸入食品の広告

女性向けファッションや化粧品やダイエット関連品

中には美容整形や豊胸手術施術クリニックの広告まである。

また、男性向けには強壮剤やヘルスケア製品が多かったと記憶する。

私にとって珍しかったのは祈祷師か巫女のような広告だった。


後でパートナーから聞いた話によると

彼女たちは韓国では巫堂(ムーダン)と呼ばれ

日本での仕事は商売繁盛を祈願する為というのが大半だろうが

韓国では良い就職や結婚を始め人生全般について

とどのつまりは如何にして金持ちになれるかということなのだが

彼女達にお伺いを立てるのが一般的なのだそうだ。


この裏情報誌にもお約束の伝言板と思しきコーナーがあって

エステを始めとする店舗の売買や求人・休職の広告も載っているようだった。

当時私ははハングル文字が全く読めなかったので

定かではないが大方当たっていると思う。 


断片的にしか話さないパートナーの話と

悟られないよう誘導尋問した答えを継ぎ合わせると

彼がやっていたエステの店長という仕事は

以下のようにして見つけるようだった。


情報誌の伝言板で目ぼしい広告を見つけたならば電話を要れ

店のある場所、東京からなら関東圏のどこへでも

自費で行くのが常識のようだった。

店のオーナーと面接して即刻就業開始ということもあるらしい。


実際の仕事はと言うと

住み込みが原則で仕事時間は午後の早い時間から客が帰るまで。

従業員である女性達の食事の世話等をしたり依頼された物品の買出しもする。

営業時間中は客から前もって料金をもらったり女性達を様々なトラブルから守る。

日給は1万円が相場らしく休日は無いので月給にして30万円くらいだ。


同性として実際に働く女性達のことが気になりそれとなく観察した。

時には何ヶ月も店から出ることもなく働くという彼女達の生活には

驚くべき事が沢山あった。


寝るのは彼女達の個室にある診察台くらいのベッドで

食事やテレビを見る時には共同の休憩室を使っていたようだ。

何時でもより条件の良い店に移れるよう

私物も最小限の物をスーツケースにまとめて持ち歩いていた。


韓国式アカスリ店が出始めた頃は文字通り垢すりだけで

従業員も韓国人女性が多かったそうだが

円の価値が下がった時期にその多くが

脱北者や朝鮮族や中国人に代わってしまったらしい。


それらの人々特に女性達に店のルールを話しても聞く耳を持たず

安易に稼げる過剰サービスへ移行するのに時間は掛からなかった。
 
月に最低でも50〜60万円は稼ぐという彼女達の中には

時には100万円以下で売り出されている店を買い

複数の店を経営するママと呼ばれる女性達も出てきた。


脱北者というのは北朝鮮から韓国へ逃げて来た人達で

韓国国籍を得られ、ある程度の生活を保障されるが

韓国内では偏見があり差別の対象になることが多いと言われている。


朝鮮族と呼ばれている人達は朝鮮族自治区に住む人達で

国籍は中国だが韓国語も話せるバイリンガルが多く

どういう手段を使っているかは分からないが

日本に入ってくる朝鮮族も少なからず居るらしい。


厳しい過去や現実の生活を感じさせることもなく

一見明るく庶民的で究極のサービスをも厭わない彼女達が

苦労知らずの日本人男性を手玉に取るくらい容易いことだろう。

そんな彼女達に同情することは失礼にすら思え

生きていく厳しさと逞しさを見せつけられた思いだった。


出入国管理局がそういった事情に配慮する訳は無いが

ビザを手配するブローカーは確かに居て

パートナーもその恩恵を被って10年以上日本に滞在することができた。

ただし、90日以内に日本から出国しなければならず

成田空港に2度ほど彼を迎えに行ったことがあるが

うち1回は入管から携帯に電話が入り彼との関係を尋ねられた。
 

付き合い始めてから3度目になる彼の出国期限が近づいた頃

再入国に便利とでも考えたか「一緒に韓国へ行こう」と言われた

嬉しくはあったが半信半疑のまま

「2泊3日だったら何とかなりそうだ」と答えてしまった。
 

話はどんどん具体化しチケット手配完了となった時点で

断る機会を完全に逸してしまい覚悟を決めるしかなかった。

最大の心配である中学生の一人娘も理解ある友人が快く引き受けてくれ

こうして私は深く考えもしないで初の韓国旅行をすることになったのだった。

                            
                                     −つづく−


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1444