三日後、ガーツは再度ハジャン省にある、ヌン族の集落へSOGと共に偵察任務へ赴こうとしたとき、MACVのS3(情報将校)が慌てて、ヒューイに乗り込もうとするガーツの元に駆け寄ってきた。 「どうした?」 ガーツがサングラスを取り、息を切らしていたS3に言った。 「ラングレー(CIA本部)から緊急で電報が入りました!」 そう言うと、S3がメモを手渡す。ガーツがそのメモに目を通す。 「これは・・・!?」 メモを持つ手が震えた。メモには、今回の偵察任務を急遽中止せよとタイプで打たれてあった。 「何故だ!?」 ガーツがS3の襟首を掴み上げる。 「分かりません!」 ガーツはS3をそのまま突き飛ばすと、MACV本部のオフィスへ向かった。受話器を取り、サイゴンにあるアメリカ大使館へ電話をする。 「ゴールドマン・スピーキング」 男が受話器を取った。マイケル・ゴールドマン、CIDG計画を担当しているエドナー・ガーツの上司だった。 「今、連絡が来た。何故、偵察を止める!?」 受話器から聞こえるガーツの声が割れるほど、彼は声を張り上げた。 「今朝“ニューヨークタイムズ”の一面に載ったのだ」 アメリカ国内の発行部数3位を誇る新聞紙の一面に、ヌン族の集落が載ったとゴールドマンが話した。そこには「戦乱の最中に、献身的にヌン族に身を捧げる宣教師」と銘打っていた。宣教師の名も全て公開されており、彼らと生活を共にする状況が書かれていた。そんな記事が出てしまっては、迂闊に近寄れない状況であった。 「その宣教師は、ラングレーが送りこんだ者か?」 ガーツの問いに、ゴールドマンがノーと言う。 「では、その宣教師は何者だ?」 「調査中だ。どこかのスリーパーであることは間違いないのだが・・・」 ガーツは受話器を叩きつけた。ウィルキンソンが持ってきた三日前の報告書に、再度目を通す。すると、興味深い内容があった。 ヌン族の男たちが携えていた武器が、AK47VからAK47の改良型AKM(近代化カラシニコフ自動小銃)に変わったというのだ。 1953年にソ連軍が正式採用したライフルだった。今回の事件の背後には、やはりKGBが関わっている。だが、今は迂闊に手を出せない。ガーツは怒りのあまり、拳をデスクに叩きつけた。
ベトナム・ハジャン省 ヌン族の集落。 宣教師が村の者たちを集め、村長の家屋で聖書の説教を行っていた。その光景を見ながら、バリーは独り佇んでいた。煙草を取り出し、一本くわえると火を点ける。大きく煙を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。その煙の向こうから、モビーディックが近寄ってきた。 「全て、お前の“読み”通りだったな!」 バリーは伸びきった自分の無精髭を触りながら、モビーディックを睨み返す。 「作戦は、まだ終わっていない」 「いや、上出来さ。俺が見込んだだけのことはある」 バリーが立てた作戦はこうだった。
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