「どういう事だ・・・?」 「お前が、デボア家の当主として、ふさわしいかどうか・・・」 モビーディックは、バリーが今まで生きてきた人生を語る。 「お前が、自分で生き残る術を与えたのも、我々だ」 そう言うと、バリーが少年時代に会った“魔法使い”の話をする。合気道を教わった老人だ。 「我々が送り込んだ合気道の達人も、お前は素直に受け入れたな」 バリーには、現実感が沸かなかった。 「浮かない顔だな」 モビーディックが言う。 「当然だ。ここが何処かも分からないし、第一、俺が今生きているのかさえ疑問だ」 バリーがそう言うと、モビーディックはファティーグのポケットから、何かを取り出し、バリーに投げた。それを掴む。 「お前のシガーケースだな」 見ると鉄製のシガーケースが、大きくひしゃげている。バリーはそれを左胸のポケットに入れていたことを思い出した。 「それで心臓への一発が反れ、もう一発は急所を外れ、貫通していた。運の良い奴だ」 「じゃあ、ここはどこだ?」 「ラオスとビルマとタイの国境沿いにある、我々のファイア・ベースだ」 そう言うと、モビーディックはその部屋のカーテンを開く。 「何だこれは・・・?」 目の前に広がっていたのは、広いホールにレーダーや様々な通信機器、壁には世界地図やモニターが数多く稼動していた。様々な人種のオペレーター達が動いている。まるで何かの司令ホールだった。 「本題に入ろう」 モビーディックが部屋のデスクからファイルを取り出すと、バリーに渡した。 「“当主”になる為の、第一の試練だ」 ファイルには“CIDG計画”と書かれている。同国人同士を戦わせる“ベトナミゼーション”のはずだったが、ファイルのトップにはトップシークレットと記されており、重要な部分が一部消されてはいたが、その内容にバリーは驚愕した。 「真のCIDG計画とは、ヌン族に宣教師を潜り込ませ、アヘンを栽培・精製、アメリカへのルートを確立させる」 「じゃあ、俺が見たのは・・・」 バリーの問いに、モビーディックは頷いた。 「あそこで精製されていたのは、生アヘンから出来たヘロインさ。アメリカへ輸出する為の、重要な資金源だ」 「輸出ルートというのは・・・」 「従軍しているアメリカ兵さ。彼らは顧客であり、ブツを無事に本国まで届けてくれる大事な運び屋だ」 モビーディックは、“第一の試練”を話し始めた。 「CIAの前身であったOSSは我々の監視下にあった。しかしアレン・ダレスがCIA長官になり、CIAは我々に背いたんだ。お前の“試練”は、ビルマからタイ、ラオスを通ってサイゴン、バンコク、ビエンチャンからアメリカに至る麻薬ルートを掌握し、CIDG計画を壊滅する。その為に、インドシナ半島に潜伏している我々のケース・オフィサー2万369名は、お前の指揮下に入る」 バリーは冷静にその言葉を聞いた。“当主”自体に興味は無かったが、ガーツ・ブラウン・ヘイズに復讐する為の“力”を欲した。 「分かった・・・」 バリーは静かに応えた。 「“第一の試練”に乗る」
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