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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第95回   95
「どういう事だ・・・?」
「お前が、デボア家の当主として、ふさわしいかどうか・・・」
モビーディックは、バリーが今まで生きてきた人生を語る。
「お前が、自分で生き残る術を与えたのも、我々だ」
そう言うと、バリーが少年時代に会った“魔法使い”の話をする。合気道を教わった老人だ。
「我々が送り込んだ合気道の達人も、お前は素直に受け入れたな」
バリーには、現実感が沸かなかった。
「浮かない顔だな」
モビーディックが言う。
「当然だ。ここが何処かも分からないし、第一、俺が今生きているのかさえ疑問だ」
バリーがそう言うと、モビーディックはファティーグのポケットから、何かを取り出し、バリーに投げた。それを掴む。
「お前のシガーケースだな」
見ると鉄製のシガーケースが、大きくひしゃげている。バリーはそれを左胸のポケットに入れていたことを思い出した。
「それで心臓への一発が反れ、もう一発は急所を外れ、貫通していた。運の良い奴だ」
「じゃあ、ここはどこだ?」
「ラオスとビルマとタイの国境沿いにある、我々のファイア・ベースだ」
そう言うと、モビーディックはその部屋のカーテンを開く。
「何だこれは・・・?」
目の前に広がっていたのは、広いホールにレーダーや様々な通信機器、壁には世界地図やモニターが数多く稼動していた。様々な人種のオペレーター達が動いている。まるで何かの司令ホールだった。
「本題に入ろう」
モビーディックが部屋のデスクからファイルを取り出すと、バリーに渡した。
「“当主”になる為の、第一の試練だ」
ファイルには“CIDG計画”と書かれている。同国人同士を戦わせる“ベトナミゼーション”のはずだったが、ファイルのトップにはトップシークレットと記されており、重要な部分が一部消されてはいたが、その内容にバリーは驚愕した。
「真のCIDG計画とは、ヌン族に宣教師を潜り込ませ、アヘンを栽培・精製、アメリカへのルートを確立させる」
「じゃあ、俺が見たのは・・・」
バリーの問いに、モビーディックは頷いた。
「あそこで精製されていたのは、生アヘンから出来たヘロインさ。アメリカへ輸出する為の、重要な資金源だ」
「輸出ルートというのは・・・」
「従軍しているアメリカ兵さ。彼らは顧客であり、ブツを無事に本国まで届けてくれる大事な運び屋だ」
モビーディックは、“第一の試練”を話し始めた。
「CIAの前身であったOSSは我々の監視下にあった。しかしアレン・ダレスがCIA長官になり、CIAは我々に背いたんだ。お前の“試練”は、ビルマからタイ、ラオスを通ってサイゴン、バンコク、ビエンチャンからアメリカに至る麻薬ルートを掌握し、CIDG計画を壊滅する。その為に、インドシナ半島に潜伏している我々のケース・オフィサー2万369名は、お前の指揮下に入る」
バリーは冷静にその言葉を聞いた。“当主”自体に興味は無かったが、ガーツ・ブラウン・ヘイズに復讐する為の“力”を欲した。
「分かった・・・」
バリーは静かに応えた。
「“第一の試練”に乗る」


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