遠のく音の中で、爆発音が轟く。顔や身体に、爆発で散った砂煙や、塵が落ちてくる。銃声があちこちで鳴り響き、ガーツとブラウン、ヘイズが何かを叫びながら逃げていった。そして自分の横についた男が、顔を覗き込んでくる。 「タウバー、大丈夫か?」 その男の顔は霞んでいたが、聞き覚えのある声だった。バリーは目を凝らし、その男の顔を見る。 「ホア・・・」 そう言うと、バリーは大量の血を吐いた。 「早く!担架を持って来い!」 叫んだホアの声が小さくなり、バリーは気を失った。
一定の機械音が、規則正しく鳴っていた。その音に違和感を感じ、目をゆっくりと開く。見るとコンクリートの壁に、蛍光灯の光が、鉄筋で造られた丈夫な梁を映し出している。腕に点滴の針が刺さっており、顔を覆っていた酸素マスクが息苦しく感じた。 バリーは酸素マスクを取り、ベッドの周りを囲っていたカーテンを掴んだ。上体を起こそうとしたが、身体がいうことをきかなかった。頭の横にはバリーの心拍数を示した生体情報モニターが備え付けられている。 「ここは・・・?」 もう一度、身体を起こそうとするが、左胸に激痛が走った。また、ベッドに倒れこむ。その音に気付き、誰かが近付く気配がした。 カーテンが開くと、ファティーグを着た片目の男が立っていた。 「やっと目を覚ましたか!クソ坊主!」 男は、黒の眼帯をしている。その身体からは、戦場を渡り歩いてきた老練な兵士の匂いがした。 「誰だ・・・?」 バリーが男を見上げる。蛍光灯の逆光で、男の顔がよく見えなかった。 「俺の名は、“モビーディック”」 そう言うと、その男・モビーディックはベッドの脇にあった椅子に腰掛けた。 「白鯨?」 モビーディックを名乗る男の顔が、光でよく見えるようになった。 「俺の本当の名は、いずれ分かる時がくる」 彼の顔に、大きな傷がある。青い目のモビーディックが、笑みを浮かべた。バリーはその名が、男のコールサインだと気付いた。 「何者だ?」 バリーは、目を細める。 「ある方が、お前をえらく気に入っていてな。だから、お前に会いに来たんだ」 モビーディックは、煙草をくわえた。 「ある方?」 「まぁ、そう急くな」 モビーディックは、煙草に火を点ける。 「お前は“候補”として最終段階に入ったのさ」 その瞬間、バリーの脳裏にハワード・ステニスの顔がフラッシュバックする。耳の中で、彼の声が断片的に甦った。 「デボアか・・・」 その言葉に、モビーディックが驚いていた。 「何だ、知ってたのか?」 煙草を大きく吸い込み、その灰を床に落とす。 「いや、“スカル&ボーンズ”のハワード・ステニスに聞いていたのだったな」 今度は、その言葉にバリーが驚いていた。 「何故、それを・・・」 モビーディックは、何もかも見透かしたような目で、バリーの目を見た。 「我々は、お前が産まれた時から、お前を見てきたのだ」
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