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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第94回   94
遠のく音の中で、爆発音が轟く。顔や身体に、爆発で散った砂煙や、塵が落ちてくる。銃声があちこちで鳴り響き、ガーツとブラウン、ヘイズが何かを叫びながら逃げていった。そして自分の横についた男が、顔を覗き込んでくる。
「タウバー、大丈夫か?」
その男の顔は霞んでいたが、聞き覚えのある声だった。バリーは目を凝らし、その男の顔を見る。
「ホア・・・」
そう言うと、バリーは大量の血を吐いた。
「早く!担架を持って来い!」
叫んだホアの声が小さくなり、バリーは気を失った。

一定の機械音が、規則正しく鳴っていた。その音に違和感を感じ、目をゆっくりと開く。見るとコンクリートの壁に、蛍光灯の光が、鉄筋で造られた丈夫な梁を映し出している。腕に点滴の針が刺さっており、顔を覆っていた酸素マスクが息苦しく感じた。
バリーは酸素マスクを取り、ベッドの周りを囲っていたカーテンを掴んだ。上体を起こそうとしたが、身体がいうことをきかなかった。頭の横にはバリーの心拍数を示した生体情報モニターが備え付けられている。
「ここは・・・?」
もう一度、身体を起こそうとするが、左胸に激痛が走った。また、ベッドに倒れこむ。その音に気付き、誰かが近付く気配がした。
カーテンが開くと、ファティーグを着た片目の男が立っていた。
「やっと目を覚ましたか!クソ坊主!」
男は、黒の眼帯をしている。その身体からは、戦場を渡り歩いてきた老練な兵士の匂いがした。
「誰だ・・・?」
バリーが男を見上げる。蛍光灯の逆光で、男の顔がよく見えなかった。
「俺の名は、“モビーディック”」
そう言うと、その男・モビーディックはベッドの脇にあった椅子に腰掛けた。
「白鯨?」
モビーディックを名乗る男の顔が、光でよく見えるようになった。
「俺の本当の名は、いずれ分かる時がくる」
彼の顔に、大きな傷がある。青い目のモビーディックが、笑みを浮かべた。バリーはその名が、男のコールサインだと気付いた。
「何者だ?」
バリーは、目を細める。
「ある方が、お前をえらく気に入っていてな。だから、お前に会いに来たんだ」
モビーディックは、煙草をくわえた。
「ある方?」
「まぁ、そう急くな」
モビーディックは、煙草に火を点ける。
「お前は“候補”として最終段階に入ったのさ」
その瞬間、バリーの脳裏にハワード・ステニスの顔がフラッシュバックする。耳の中で、彼の声が断片的に甦った。
「デボアか・・・」
その言葉に、モビーディックが驚いていた。
「何だ、知ってたのか?」
煙草を大きく吸い込み、その灰を床に落とす。
「いや、“スカル&ボーンズ”のハワード・ステニスに聞いていたのだったな」
今度は、その言葉にバリーが驚いていた。
「何故、それを・・・」
モビーディックは、何もかも見透かしたような目で、バリーの目を見た。
「我々は、お前が産まれた時から、お前を見てきたのだ」


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