MACV-SOGとして任務に就き、任務内容は専らホー・チミン・ルートの探索であった。北ベトナムから17度線を越え、ラオス・カンボジアを通る大動脈から、毛細血管のようにホー・チミン・ルートが整備されていた。 しかし10月31日にジョンソン大統領の支持で、全ての北爆が停止。 4月に公民権運動家であったマーチン・ルーサー・キング牧師が暗殺され、6月にはジョン・F・ケネディの弟であるロバート・ケネディも、大統領選挙の演説中に暗殺。恐らく、アメリカ国内の情勢が悪化し、その上ヘザーが参加していた反戦運動が激化した為の対策だろうと、バリーは読んでいた。
その日の朝、酷い寒さで目が覚めた。ポンチョを羽織ってはいたが、ファティーグに付いた水滴が体温を奪い、更に寒さを増加させている。空が白み始めている。時計を見ると5時を少し過ぎていた。 バリーは哨戒任務に当たっていたデイビスの肩を叩き、手で「出発する」の合図を出した。 その動きに、ヘイズと今回特別に同行したガーツが目を覚ます。そしてガイドである二人のCIDG隊員と、およそベトナム戦争には似合わない男も立ち上がった。 白髪の柔和な笑みを浮かべた、その男の名はローガン・ブラウン。彼はキリスト教宣教師で、今回の任務は、このブラウンを護衛をしながら、ハジャン省にあるヌン族の集落まで送り届けることだった。 「あと、半日程度の移動です。歩けますか?」 バリーがブラウンに声をかける。 「ああ、ありがとう。私なら大丈夫だよ」 一人のCIDG隊員が付き添いながら、優しい笑みを浮かべてブラウンは歩き出す。最後尾に着いたバリーは、その姿を見て、何かが腑に落ちなかった。ブラウンの歩き方や仕草が、宣教師とは思えないのだ。ジャングルの中だというのに、彼は足音一つ立てずに歩き、警戒しているときは、その身体からは殺気が感じられるのだった。 「何者だ?」彼は、そう考えていた。
昼前にジャングルを抜け、水田に出た。広大な水田の向こうに、ヌン族の集落が見えている。その集落の周りには、物々しいほどの木製の高いバリケードが作られてあった。 村の入り口には、AK47を携えた男たちが見張りに就いている。バリケードの入り口で、その男たちに検問を受けるが、ブラウンとガーツに対しては、ノーチェックだった。 村に入ると、全ての家屋が高床式になっていた。床が高く、編みこまれた竹で壁が出来ている。風通しを考慮した、造りになっていた。 村の女たちは藍色の頭巾を巻き、みんな裸足だった。 「男が、数えるほどしかいないな」 バリーが言った。 「CIDGで出てるんだろ」 デイビスが応える。歩き進めると、ある家屋から長い髭を垂らした、ヌン族の男が出てきた。彼はブラウンの顔を見ると、抱擁の挨拶を交わす。その男は、この村の長老だろう。 そしてガーツとも挨拶をする。バリーは、その光景に違和感を感じていた。 CIDG計画・モンタニヤード(山岳少数民族)を訓練し、ベトナム戦争は同国人同士で戦わせる____________ベトナミゼーションを行ったのは、彼らと暮らしたことのあるSFG(特殊部隊)“グリーン・ベレー”のはずだった。 だがCIAであるガーツと、宣教師のブラウンとヌン族の族長が、親しげにしていたのだ。考えすぎなのかもしれないが、何かが気に入らなかった。
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