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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第89回   89
MACV(南ベトナム軍事援助司令部)という名の組織ではあるが、その中身は軍情報部と中央情報部・CIAから成り立っている。この男の腕に階級章が無いということは、ガーツがCIAの諜報員である証拠だった。
「これから、君たちはMACV-SOGとして働いてもらう」
ガーツはSOGが如何に、この戦争に重要であるかを説いた。そしてSOGの機密性は絶対であるということ。例え同じLRP、SOGの他の隊員でさえも、任務に関して漏らしてはいけないと話した。
「君たちの武器も新しくなる。後で補給部に行くように」
バリーを始めとした新メンバーの三人は、部屋を出た。HQを出た三人は、必然的に自己紹介を始める。
「俺はタウバーE-6SSG(二等軍曹)だ。あんたは?」
一人目は、いかにも幾多の戦場を潜り抜けてきた猛者という雰囲気の男だった。
「マーク・デイビスE-5SGT(三等軍曹)。クライトマンは、残念だったな」
酷い南部なまりだったが、握手のグリップは力強かった。彼は元からLRP隊員で、クライトマンともチームを組んだことがあるという男だった。
バリーは二人目に握手を求める。
「ダレン・ヘイズE-4CPL(伍長)です」
バリーはヘイズの目を見た。この男の目が、異様な光を放っている。バリーの本能が、この男は危険だとシグナルを出していた。
「第23歩兵師団第11軽歩兵旅団・バーカー機動部隊、第20歩兵連隊第1大隊C中隊から来ました」
目の前に、死んだクライトマンの顔が浮かび上がる。バリーは、ヘイズが所属していた部隊の名前を思い出した。
「お前・・・カリー中尉の第1小隊にいたのか?」
「はい。もう、知れ渡りましたか」
ヘイズは、まるで自慢するような口調で応えた。
3月に、第23歩兵師団第11軽歩兵旅団・バーカー機動部隊、第20歩兵連隊第1大隊C中隊、カリー中尉率いる第1小隊は、無抵抗のソンミ村の村民500人を、無残にも虐殺していった部隊だった。
「お前も、その中にいたのか?」
バリーの問いに、ヘイズは「はい」と応える。
「あの時は、大変でしたよ」
ヘイズが不気味な笑みを浮かべる。
「なかなか奴ら、言うことを聞かなくてね。だから、ナイフで一人一人刺してやりましたよ。奴らに弾丸を使うのも、勿体無いですからね」
バリーはヘイズの目を少しそらしながら、低い声で彼に言った。
「お前は、イカれてる」
一瞬で、ヘイズの表情が変わる。
「何だと?」
今にもバリーに飛びつきそうな勢いのヘイズを見たデイビスが、二人の間に割って入った。
「よせ。チームでいがみ合うな」
「もう一度、言ってみろ!」
ヘイズが怒鳴る。バリーは凍りつくような冷たい目で、彼を見た。
「お前は、イカれてると言っただけだ」
デイビスに抑えられているヘイズは、バリーに罵詈雑言をぶつける。
「殺してやる!」
止めたデイビスを殴ると、ヘイズはバリーに殴りかかった。だが次の瞬間、ヘイズの身体が宙を舞う。見ていたデイビスも、ヘイズも何が起こったか理解できなかった。
バリーは息一つ乱さずに、ヘイズを見ている。
ヘイズはもう一度、バリーに飛び掛った。バリーは一瞬にしてヘイズの前から消え、気付くと地面にねじ伏せられ、右手をひねられていた。ヘイズは、全く身動きが取れない。
「一つ言っておくが、俺の邪魔をすれば、お前を殺す!いいな!」
バリーの身体から発せられる、その殺気に、ヘイズは恐怖を感じた。


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