適度なバンカーを見つけ、三人はそこに入った。クライトマンを寝かせると、彼の口に木の枝を噛ませた。バリーはバッグから医療キットを取り出し、クライトマンのシャツを破ると、銃創にアルコールをかける。彼は呻き声を上げるが、木の枝を噛みしめていた分、声は極力抑えることが出来た。 「大丈夫か?」 そう言いながらバリーが、とめどなく出血をする銃創にガーゼを置き、包帯を巻いた。 「タウバー、ホアも、すまない・・・」 クライトマンが力なく囁く。 「何だ、あんたにしちゃ、えらく素直だな」 バリーが笑みを浮かべる。 「そうだな。俺としたことが、しくった」 クライトマンが笑う。 「タウバー、時間が無い。さっきの奴らの話を聞いた」 ホアが言った。 「奴ら5月5日に、テト攻勢以来の、大攻勢をかけるつもりだ」 バリーとクライトマンの顔色が変わった。あの村人たちを虐殺したのは、あそこを拠点に本隊と合流し、5月5日に大攻勢をかけるということだったのだ。 「タウバー、俺をここに置いていけ」 クライトマンが言う。 「駄目だ」 バリーは即座に応えた。 「あんたも連れて、本部へ帰る」 「無理だ。皆死ぬ」 クライトマンを無視し、バリーはホアの顔を見た。 「ホア、力を貸してくれ!」 バリーの真摯な透き通った水色の瞳に、ホアは応える。 「だが、もしもの時は、お前だけでも本部へ帰れ」 バリーの言葉に、ホアは首を横に振った。 「俺は、戦士だ。お前たちと、最期まで戦う」 そう言うと、ホアは不敵な笑みを浮かべた。彼はCIDG・サイジー隊員の中でも、最も優秀な男だった。ベトナム語、クメール語、片言だが英語を操り、教えたことは何でも吸収し、自分のものにしていく能力を持っていた。ナイフを使いこなし、特に射撃の腕はCIDGではなく、訓練された精鋭のLRP隊員の中でも、5本の指に入るほどだった。バリーが教えた合気道の技も、彼は自分のものにしている。 バリーは、ホアの肩を叩く。そして小さく頷いた。 クライトマンを起こし、バリーは彼を背負う。 「何をする気だ?」 クライトマンが戸惑っていたが、バリーは構わず彼と自分をロープで結んだ。 「アンロクのPZまで戻っていては、時間が無い。バンロンにマリーン(海兵隊)のファイアベースがある。そこなら、急げば明日の朝には着く!」 「無茶だ」 「年寄りは、おとなしくしてろ!」 辺りが薄暗くなってきた。夜に音を立てて移動するのは、かなり危険が増す。敵に見つかりやすくなるからだった。だがバリーは、敢えて危険を犯した。一刻も早く本部にNVAの大攻勢を知らせる為と、クライトマンを救う為だった。 「ホア、行くぞ!」 そう言うと、ホアはしんがりを勤め、バリーはクライトマンを背負って走り始めた。
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