ピックアップPZ(着地点)まで、何度か交戦するかと思われたが、三人は緊張を強いられながらも切り抜けた。 迎えのヒューイに乗り込み、ニャチャンに向かう。 「何故、カンボジアは北ベトナムに何も言わないんだ?」 その機内で、バリーがクライトマンに問いかける。彼はカンボジア国内に存在していた、北ベトナム軍の前線基地に疑問を持っていた。 「シアヌークは中立の立場だったはずだ」 バリーはそう言いながらブッシュハットを取り、クライトマンの目を見た。 シアヌークとは、カンボジアの国王である。自国の領土に、他国の軍が勝手に入り込み、軍備を増強させていたのだ。通常であれば、カンボジアは北ベトナムに強い抗議、場合によっては軍事行動を起こしてもおかしくない状況のはずだった。 「シアヌークは中立を宣言しているものの、共産寄りなのさ」 クライトマンが葉巻をくわえる。 「補給路は断たないのか?」 バリーが言う。 「ホー・チミン・ルートか?」 クライトマンは葉巻に火を点ける。 「どうもアンナン山脈を通っているらしく、上空からは発見が出来ない。今日見た、奴らのファイアベースのようなもんだ。ジャングルの木々が、奴らの味方をしている」 三人は外を見る。ヒューイの砲撃手が煙草を吸いながら、機関銃に手をかけ外を眺めていた。 「アメリカも、B52(爆撃機)を出しては度々越境して空爆することもあるが、大規模な空爆には至らない」 クライトマンが言った。 バリーはアメリカも、手をこまねいている理由を悟った。特に、この年は大統領選挙の年だった。ここで北爆だけではなく、カンボジアにまで爆撃をしたとなれば、国内の反戦運動が更に激化し、選挙にまで影響する恐れがあるのだ。 「まぁ、ディンク(敵)のバックには中国とソ連が付いているんだ。弱小国のカンボジアが、そうそう文句は言えない立場なのかもな」 クライトマンが笑った。 「つまりは、我々もカンボジアも、八方塞りということか」 バリーもポケットからラッキーストライクを取り出す。 「そういうこった。政治は、政治屋に任せりゃいいのさ」 バリーはこの初任務で、アメリカが既に敗北していることを知った。
ニャチャンに到着し、HQ(作戦本部)に報告した後、三人はウィルキンソン大尉の部屋に向かった。 「よくやった!」 ウィルキンソン大尉は満面の笑顔を浮かべ、バリーの肩を叩いた。 「全く、ただのカレッジボーイかと思ったら、上出来だ!」 「俺は初日に、お前は悲惨な目に遭うと、大尉と賭けてたんだ」 クライトマンが笑う。 「俺も、お前も大損だな」 ウィルキンソンが言った。 「じゃあ、俺が生き残る方に賭けたのは?」 バリーが言う。ホアが不敵な笑みを浮かべ、バリーに言った。 「俺だ。今日は、ビールおごってやるよ」
クライトマン、ホアとビールを浴びるように飲んだ後、バリーはテントに戻り、自分のベッドに倒れこむと、そのまま泥のように眠ってしまった。
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