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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第79回   79
このポイントにアンブッシュを仕掛けていたということは、恐らく本隊の哨戒任務に当たった分隊だった可能性が高い。しかしそれは北ベトナム兵が、この辺りに多く存在していることを意味していた。バリーは捕らえた捕虜を、縛り上げる。男はまだ脳震盪を起こしていたため、気絶していた。バリーが捕虜を肩に担ぎ上げ、三人は野営の場所を探した。
歩兵部隊が北ベトナム軍と交戦したポイントまで来ていた。適度なバンカーを見つけ、音を出さないように細心の注意を払いながら、夜が明けるのを待つ。
バリーがレーションを口にしていた時、ホアが捕らえたコブラの切り身を勧めてきた。味はうまいが、骨が多いのが気になっていた。
東の空が白み始めた頃、三人は行動を開始した。クライトマンはピストルにサプレッサー(減音器)を取り付ける。
「殺す気か?」
バリーがクライトマンを制するが、彼は「まぁ、見ておけ」と言うだけだった。
「お前を逃がしてやる」
クライトマンが捕虜の縄を解きながら言う。それをホアがベトナム語に訳した。捕虜は慌てて逃げ始める。クライトマンは何も言わず、捕虜の右肩を撃ち抜いた。捕虜は一度倒れたが、それでも逃げた。
「よし、追うぞ」
ジャングルの草むらに、人間が通った道だけ、朝露がついていない。一目瞭然な上に、捕虜を撃ち抜いた血痕が残っている。
「奴は、必ずファイアベースに戻るはずだ」
クライトマンが言う。バリーは斥候を勤め、先頭を歩いた。コンパスを見ながら、位置を確認する。ブービートラップ(罠)に注意を払い、全神経を集中させた。
捕虜を逃がして二時間後、バリーは地図を確認したとき、あることに気付いた。捕虜は確実にカンボジア国境を越境したのだ。見張りもいなければ、有刺鉄線も何もない、ただジャングルが存在しているだけの、極めて曖昧な国境だった。バリーはそれでも先行し、捕虜を追った。やがて捕虜が通った道の傍に、ある程度見渡せる高台を見つけた。バリーはそこに身を潜め、辺りを確認する。
少しすると、クライトマンとしんがりを勤めたホアが合流した。バリーがカムフラージュしながら、望遠鏡を覗いている。
「見つけたか?」
クライトマンがバリーに小声で話しかける。バリーは彼に望遠鏡を手渡した。
高台から見下ろすと、およそ2km前方に、北ベトナム正規軍のファイアベースが存在している。木々で巨大な屋根を作り、上空からは確認できないようになっている。目視で確認する限り、M46・130ミリ野砲に対空砲、地対空ミサイルなどが配備されている。1、2個旅団の規模だった。これが確認できた以上は、ここに長居は無用だった。逃がした捕虜が、もう彼らのファイアベースに着いた頃だろう。追撃隊を組織し、我々を追い始めている可能性が高い。
「撤収する」
クライトマンが囁いた。


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