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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第78回   78
辺りが薄暗くなり始めた。アメリカとは違う湿度とこの暑さに、普通なら体力を奪われるはずだったが、コブラの心臓のせいか、訓練の賜物なのか、バリーは全く疲れを感じなかった。それどころか、感覚がますます鋭敏になっていく。木々の葉がかすかに揺れる音、虫が葉の上を歩く音でさえ、全て手に取るように分かった。
バリーが、突然立ち止まる。その様子に、ホアとクライトマンが気付いた。
「どうした?」
クライトマンが問いかけるが、バリーの様子から、敵が近くにいるのを悟った。バリーは顔の向きを変えないまま、視線だけを右に向ける。
アンブッシュ(待ち伏せ)だった。ホアもそれに気付く。クライトマンは、手で「散開する」と二人に合図を送った。二人は頷く。
「今だ!」
クライトマンが叫んだ瞬間、AK47の乾いた銃声が轟いた。散開した三人は、暗闇に乗じて草むらの中に、身を潜める。バリーはナイフを手にし、全ての感覚を研ぎ澄ませた。身体に訓練で受けた動きが甦ってくる。すると、かすかだが敵の息づかいを感じた。彼らも、息を潜めている。バリーは敵を待った。必ず、向こうから動いてくる。
すると、一歩を踏み出す音がした。
二歩、三歩・・・。そしてその後に、違う人間の足が一歩、二歩。彼らは草の擦れる音さえも細心の注意を払っていたようだが、バリーには、手に取るように、その動きが分かっていた。人数は七人。その内の三人がバリーに近付く。
一人がバリーの目の前を通過した瞬間、彼の目には全ての世界が、無音でスローモーションに映った。一瞬先が見える。ナイフで一人目の頚動脈を後ろから掻っ切る。血しぶきが飛び散る中、二人目をピストルで頭を打ち抜く。三人目は、そのまま肘で当身を額に繰り出す。
一瞬で三人が倒れると同時に、バリーの耳に音が甦る。すると、クライトマンとホアも、残りの敵を殺していた。クライトマンがバリーに駆け寄る。
「大丈夫か?」と言った瞬間、バリーが倒した三人を見て、彼は息を呑んだ。全て確実に急所を捉えていたのだ。
「こいつは生きているが、どうする?」
当身を繰り出した三人目を指差し、息一つ乱していないバリーが言う。
「お前を、見くびってたよ。カレッジボーイ」
クライトマンは、あまりに鮮やかなバリーの技に興奮を覚えた。

アンブッシュを仕掛けていた敵は、着ていたその制服から、間違いなく北ベトナム正規軍だった。クライトマンはバリーが捕らえた三人目を生かし、捕虜とした。ベトナムとカンボジアの国境近くに存在するであろう、ベースの位置を尋問するためである。
三人はアンブッシュを仕掛けた敵の死体を、彼らが身を潜めていたバンカーに投げ入れ、草や木でそれを隠した。
それでも、見つかるのは時間の問題であろう。ここからは時間を急ぐ必要があった。


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