大学を出て、一丁の銃を手に入れる。スミス&ウェッソンM38チーフスペシャルという、小型の銃だった。この銃は、バリーにとって最後の切り札だった。 父親に対して、今のバリーでは僅か1%の勝ち目も無い。その上、自分がベトナムへ行き、戦死した後でも、何かとアンとジョージに危害が及ぶ危険性はあった。死ぬのは怖くなかったが、父親のジョナサンが生きている限り、彼らに平穏が訪れることは無い。もし1%の勝ち目があるとすれば、一つだけ可能性はあった。しかし極めて細い、可能性だった。 バリーはアパートに戻り、まだ顔の腫れが引いていないアンに、静かに現状を話し始めた。 「私・・・あそこには帰りたくない」 「絶対に、帰すものか。お前は、ジョージと結婚するんだろ?」 アンは俯いたままだった。 「貴方にも・・・行って欲しくない」 「俺のことは心配するな」 バリーは話を続けた。 「だが、一つだけ勝ち目はある」 アンは顔を上げる。 「難しい勝ち目だ」 「どうすればいいの?」 バリーはアンジェリアに、落ち着いて聞いてくれと促した。 「親父を、逆告訴する」 告訴内容は、自分とアンに対する、虐待行為だ。しかしこれには数々の難問があった。まだこの当時は、虐待そのものが子供の「嘘」と考えられていたからだった。 ましてや相手は“善良なミシシッピー州知事”である。陪審員の信頼を勝ち得るには、相当の腕が必要だった。そして最後の難問は、アンの“証言”だった。父親から性的虐待を受けたと、彼女自身が証言台に立つ必要があった。 「絶対に嫌よ!」 確かに、彼女にとっては相当の苦痛がのしかかる。聞きたくないことや、相手の弁護士から辱めを受けるのは、目に見えてわかっていた。だが、バリーは敢えて話を続けた。 「アン、お前が“沈黙”を続けても、前には進めない」 アンと父親の関係は、ジョージだけでなく、世間にも知れ渡ってしまうのだ。 「俺も、ジョージもついている」 「そんなの・・・嫌よ」 やはりアンの反応は、予想通りだった。 アンの脳裏に、こめかみに銃口を当てた親の姿が甦る。 「お前がこの事を誰かに話せば、パパはお前の前で死んでやる」 ジョナサン・タウバーはアンの身体を触る度に、彼女の前で銃をこめかみに当て、彼女を脅していた。アンの身体が震えだす。彼女はたった独りで、その恐怖に耐えていた。その姿を見たバリーは、それ以上、何も言えなかった。もう、最後の切り札しかない。バリーはそう考えた。
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