20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第72回   72
大学を出て、一丁の銃を手に入れる。スミス&ウェッソンM38チーフスペシャルという、小型の銃だった。この銃は、バリーにとって最後の切り札だった。
父親に対して、今のバリーでは僅か1%の勝ち目も無い。その上、自分がベトナムへ行き、戦死した後でも、何かとアンとジョージに危害が及ぶ危険性はあった。死ぬのは怖くなかったが、父親のジョナサンが生きている限り、彼らに平穏が訪れることは無い。もし1%の勝ち目があるとすれば、一つだけ可能性はあった。しかし極めて細い、可能性だった。
バリーはアパートに戻り、まだ顔の腫れが引いていないアンに、静かに現状を話し始めた。
「私・・・あそこには帰りたくない」
「絶対に、帰すものか。お前は、ジョージと結婚するんだろ?」
アンは俯いたままだった。
「貴方にも・・・行って欲しくない」
「俺のことは心配するな」
バリーは話を続けた。
「だが、一つだけ勝ち目はある」
アンは顔を上げる。
「難しい勝ち目だ」
「どうすればいいの?」
バリーはアンジェリアに、落ち着いて聞いてくれと促した。
「親父を、逆告訴する」
告訴内容は、自分とアンに対する、虐待行為だ。しかしこれには数々の難問があった。まだこの当時は、虐待そのものが子供の「嘘」と考えられていたからだった。
ましてや相手は“善良なミシシッピー州知事”である。陪審員の信頼を勝ち得るには、相当の腕が必要だった。そして最後の難問は、アンの“証言”だった。父親から性的虐待を受けたと、彼女自身が証言台に立つ必要があった。
「絶対に嫌よ!」
確かに、彼女にとっては相当の苦痛がのしかかる。聞きたくないことや、相手の弁護士から辱めを受けるのは、目に見えてわかっていた。だが、バリーは敢えて話を続けた。
「アン、お前が“沈黙”を続けても、前には進めない」
アンと父親の関係は、ジョージだけでなく、世間にも知れ渡ってしまうのだ。
「俺も、ジョージもついている」
「そんなの・・・嫌よ」
やはりアンの反応は、予想通りだった。
アンの脳裏に、こめかみに銃口を当てた親の姿が甦る。
「お前がこの事を誰かに話せば、パパはお前の前で死んでやる」
ジョナサン・タウバーはアンの身体を触る度に、彼女の前で銃をこめかみに当て、彼女を脅していた。アンの身体が震えだす。彼女はたった独りで、その恐怖に耐えていた。その姿を見たバリーは、それ以上、何も言えなかった。もう、最後の切り札しかない。バリーはそう考えた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1114