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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第70回   1967年11月 守護天使
ヘザーの葬儀があった翌日、バリーはアパートに戻った。部屋に入ると、アンは外出しているようだ。自分の部屋に行き、本や服を鞄に詰め終わろうとしたとき、アンが戻ってきた。
「何してるの?」
慌しく荷物をまとめるバリーに、アンは不安を感じた。
「ここを出る」
「どうして・・・」
バリーは、アンの目を見ようとはしなかった。
「ここには、ジョージに来てもらうよ」
アンは彼を引きとめる、その一言が出なかった。
「仕送りはしてやるから、学費は気にするな。それと・・・」
バリーは、荷物を肩にかける。
「お前たち、結婚するんだろ?」
玄関を出ようとしたバリーが立ち止まり、背後にいるアンに言った。
「幸せになれよ」
そう言うと、バリーは部屋を出た。アンは、その場に立ちつくした。「行かないで」その一言が、言えなかった。彼の後を追うことも出来ず、ただその場に立ちつくした。何も出来ず、涙だけを流す。どうしてこうなったのか、彼女は未だ理解出来ずにいた。

歩く音が、頭の中で響いていた。街の雑踏など、バリーの耳には届いていなかった。全て、自分が招いたことだった。自分の迷いが、全てを狂わせた。ヘザーに、もっと早く求婚していれば、クスリを止めさせられたかもしれない。
けれど、バリーは確信が持てなかった。ヘザーを愛していたという確信だった。
あの時、アンの肌に触れた瞬間、自分の中で、何かが生まれた気がしていた。それは、ヘザーに対する想いと、全く違うものだった。
「どうかしてる・・・」
立ち止まり、バリーが呟いた。アンとジョージは結婚し、二人は幸せになるのだ。遠くから、彼らの幸せだけを願えばいい。バリーはそう思い、再び歩き出した。
ふと、また立ち止まった。バリーは後ろを振り返る。誰かに、呼ばれた気がした。だが、誰もいない。
それを振り切るように、もう一度歩き出した。だが、また立ち止まる。後ろを振り返った。確かに、自分の名を呼ぶ声がした。

アパートのドアを叩く音が部屋に響く。窓辺で外を眺めながら呆然としていたアンは、その音で我に返る。
「バリー!」
そう言うと、アンは走ってドアを開けようとする。ドアを開けた瞬間、彼女の身体が凍りついた。
「久しぶりだな」
狐目のダニエル・フロストが、目の前に立っている。
「綺麗だよ、アンジェリア・・・だが!」
後ずさりするアンに、ダニエルはゆっくりと、彼女に近付いた。
「僕に黙って逃げるとは!」
ダニエルはアンの襟元を掴み上げる。アンの顔は、息が出来ない苦しさで顔が歪んだ。
「やめて・・・」
「二度と逃げられないようにしてやる!」
顔を殴られた勢いで、アンの身体が床に叩きつけられる。一瞬で、彼女の意識が朦朧とした。ダニエルは倒れたアンの身体に馬乗りになると、もう一度顔を殴ろうと手を振りかざしたとき、誰かがその腕を掴んだ。
「バリー・・・」
ダニエルが後ろを振り返った瞬間、バリーは掴んだ腕をひねりあげる。骨の折れる、鈍い音がした。ダニエルはその痛みに耐え切れず、声を上げた。バリーは何も言わず、奇声を上げる彼の顔を集中して殴り始めた。
「殺してやる」


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