ヘザーの葬儀があった翌日、バリーはアパートに戻った。部屋に入ると、アンは外出しているようだ。自分の部屋に行き、本や服を鞄に詰め終わろうとしたとき、アンが戻ってきた。 「何してるの?」 慌しく荷物をまとめるバリーに、アンは不安を感じた。 「ここを出る」 「どうして・・・」 バリーは、アンの目を見ようとはしなかった。 「ここには、ジョージに来てもらうよ」 アンは彼を引きとめる、その一言が出なかった。 「仕送りはしてやるから、学費は気にするな。それと・・・」 バリーは、荷物を肩にかける。 「お前たち、結婚するんだろ?」 玄関を出ようとしたバリーが立ち止まり、背後にいるアンに言った。 「幸せになれよ」 そう言うと、バリーは部屋を出た。アンは、その場に立ちつくした。「行かないで」その一言が、言えなかった。彼の後を追うことも出来ず、ただその場に立ちつくした。何も出来ず、涙だけを流す。どうしてこうなったのか、彼女は未だ理解出来ずにいた。
歩く音が、頭の中で響いていた。街の雑踏など、バリーの耳には届いていなかった。全て、自分が招いたことだった。自分の迷いが、全てを狂わせた。ヘザーに、もっと早く求婚していれば、クスリを止めさせられたかもしれない。 けれど、バリーは確信が持てなかった。ヘザーを愛していたという確信だった。 あの時、アンの肌に触れた瞬間、自分の中で、何かが生まれた気がしていた。それは、ヘザーに対する想いと、全く違うものだった。 「どうかしてる・・・」 立ち止まり、バリーが呟いた。アンとジョージは結婚し、二人は幸せになるのだ。遠くから、彼らの幸せだけを願えばいい。バリーはそう思い、再び歩き出した。 ふと、また立ち止まった。バリーは後ろを振り返る。誰かに、呼ばれた気がした。だが、誰もいない。 それを振り切るように、もう一度歩き出した。だが、また立ち止まる。後ろを振り返った。確かに、自分の名を呼ぶ声がした。
アパートのドアを叩く音が部屋に響く。窓辺で外を眺めながら呆然としていたアンは、その音で我に返る。 「バリー!」 そう言うと、アンは走ってドアを開けようとする。ドアを開けた瞬間、彼女の身体が凍りついた。 「久しぶりだな」 狐目のダニエル・フロストが、目の前に立っている。 「綺麗だよ、アンジェリア・・・だが!」 後ずさりするアンに、ダニエルはゆっくりと、彼女に近付いた。 「僕に黙って逃げるとは!」 ダニエルはアンの襟元を掴み上げる。アンの顔は、息が出来ない苦しさで顔が歪んだ。 「やめて・・・」 「二度と逃げられないようにしてやる!」 顔を殴られた勢いで、アンの身体が床に叩きつけられる。一瞬で、彼女の意識が朦朧とした。ダニエルは倒れたアンの身体に馬乗りになると、もう一度顔を殴ろうと手を振りかざしたとき、誰かがその腕を掴んだ。 「バリー・・・」 ダニエルが後ろを振り返った瞬間、バリーは掴んだ腕をひねりあげる。骨の折れる、鈍い音がした。ダニエルはその痛みに耐え切れず、声を上げた。バリーは何も言わず、奇声を上げる彼の顔を集中して殴り始めた。 「殺してやる」
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