小さなバスケットに、昨日のディナーの残りであるチキン、マーサが今朝焼いたブルーベリースコーンを投げ込むと、釣り竿を持ち、バリーは忍び足で大理石の玄関ホールを通り抜け、庭へ出た。青々とした一面の芝生の向こうに、小さな花園があり、そこに体格の良い黒人の女がバラの手入れをしていた。 「おや、ぼっちゃんどちらへ?」 その大きく、野太い声にバリーは飛び上がった。 「駄目だよマーサ、そんな大声出しちゃ!」 「お天道様はまだ頭の上を通り過ぎていないのに、どうして大声を出しちゃいけないのかね?」 バリーは言葉に詰まる。 「また、アン嬢さま置いて遊びに行かれるんでは?」 全てを見透かしているマーサの言葉に、バリーは激しい動揺を感じ、その場を逃げ出した。庭先に置いてあった自転車にバスケットと釣り竿を投げ込むと、アンには内緒にして欲しいとマーサに叫びながら森の方へと向かっていった。 メインストリートから、まだ舗装されていない道に逸れると、小さな獣道があり、そこに自転車を止めると、目の前には小高い丘が広がっていた。川に出るにはもうすぐだが、その丘でバリーは少しの間、ジョージを待った。バスケットの中を開け、マーサが今朝焼き上げたブルーベリースコーンを取り出し、堪らず噛り付いた。丁度一口噛り付いたところで、丘の下からジョージの声が響いた。 「それ、マーサのスコーンだろ。俺にも分けてよ」 バリーが一口噛り付いたブルーベリースコーンを半分に手で分けると、きれいな方をジョージに手渡した。彼がそれを口にすると、いつものように、うまいと唸った。 「俺も持ってきた。ママのクッキー」 ジョージもバスケットから大きなハンカチに包んだクッキーを取り出し、バリーと二人で分け合った。 「お前のママのクッキーは、世界一だな」 そのクッキーは、バリーの掌よりも少し小さい位の大きさだった。中にチョコチップが沢山入っていて、サクサクとした歯ごたえの、美味しいクッキーだった。 「俺もそう思うよ」 ジョージは満面の笑顔を浮かべた。
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