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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第67回   67
アンジェリアは、まだ気持ちの高ぶりを抑えることが出来なかった。
バイネッケ図書館の帰り、ジョージに告げられた、あの言葉に胸が高鳴り、軽いめまいを感じるほどだった。
「結婚して欲しい」と言ったジョージの眼差し、力強い腕に抱かれた時に感じた、心地よい息苦しさ。それを想っただけでも、アンの胸がときめいた。ジョージはイェールを卒業すると、FBIアカデミーに入る予定だった。彼はバージニア州クワンティコへ、アンはカリフォルニア州バークレーに別れるが、その前に結婚をしようと言った。
しかしアンは、返事を詰まらせた。
ジョージの妻として、自分は本当にふさわしいのだろうか。父親との忌まわしい関係が、前に進むことを阻んでいた。
アンは、テーブルの上にあった時計を見た。夜の10時を回っている。バリーは昼間、ヘザーに会うと言ったまま、まだ帰らなかった。こんな時間になっても帰らないことはよくあったが、何故か、嫌な予感がした。
アンはテーブルから立ち上がり、コートを羽織ってアパートを出た。

ヘザーのアパートに着くと、足音を鳴らさないように注意を払いながら、4階までゆっくりと階段を登る。彼女の部屋の前に来ると、少しためらったが、ドアのノブに手をかけた。それを回すと、ドアが開く。鍵はかかっていなかった。
「ヘザー・・・」
アンは、彼女の名を呼んでみた。だが、何の反応も無かった。薄暗いリビングを抜け、彼女の寝室へ来ると、部屋のドアが開いていた。もう一度彼女の名を呼び、ゆっくりと部屋に入る。
すると灯りの点いていないベッドの脇で、ヘザーがマリファナを吸っていた。
「ヘザー・・・」
アンが言うと、ヘザーは虚ろな瞳をアンに向ける。
「何があったの?」
バリーから彼女の様子を全く聞いていなかったアンは、彼女の様子に動揺していた。
「何か用なの?」
ヘザーはアンを睨みつける。
「・・・心配だったから・・・」
「嘘だわ!」
ヘザーは声を張り上げる。
「私なんか、何とも思ってないくせに!」
「・・・どうしたの?ヘザー」
アンは、身体の震えを感じ始めた。優しかったヘザーの変わりように、アンは混乱していた。大学に合格したことも、ジョージに求婚されたことも聞いて欲しかったのに、アンの頭の中は真っ白になっていった。
「ヘザー・・・」
アンは訳も分からず、一粒の涙を流す。ヘザーはそれが気に入らなかった。
「そうやって、泣いていればいいわ。そうすれば、いつもバリーが助けに来てくれるものね!」
「バリーと、何かあったの?」
ヘザーは立ち上がると、アンの前に立ち、彼女の頬を殴った。激しい痛みと共に、アンは床に倒れた。
「バリーが愛しているのは、あんたなのよ!」
ヘザーの顔が、憎しみで醜くなっていった。
「何のこと?」
ヘザーは倒れているアンの髪を掴んで、彼女の頭を床に叩きつける。
「やめて!」
その声にヘザーの手が止まった。
「あんたを、女として愛してるのよ・・・!」
ヘザーの瞳から、涙がこぼれる。アンは、何も考えられなかった。
「違うわ・・・」
アンは首を振る。ヘザーはアンを睨みつけると、床に落ちていた睡眠薬が入った瓶を投げつけた。アンは左腕で、それを避ける。瓶は、アンの足元に落ちた。
「あんたが、憎いわ!」
アンの瞳も、ヘザーの瞳も涙で溢れかえる。
「ヘザー・・・私たち、親友でしょ?」
「あんたを親友と思ったことなんて、一度も無いわ!」
ヘザーの顔がまた、憎しみで歪む。
「アンジェリア、あんたなんか、死ねばいいのよ!」


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