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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第65回   65
数日後、バリーとアンに法律事務所と、大学の合否結果が届いた。アンは当然のことながら合格、バリーは、受けた3社の法律事務所、全て採用だった。
採用通知が届いた翌日、バリーはヘザーのマンションに向かった。彼女は、今月になって半月以上も大学に姿を見せていなかった。彼女はベトナム反戦運動に没頭し、反戦集会と歌とクスリに溺れていた。
マンションのベルを鳴らすが、反応が無い。もう一度鳴らしても、全く反応は無かった。バリーはドアをノックする。
「ヘザー、いるんだろ?」
やはり、反応は無かった。諦めて、その場を離れようとしたとき、ドアのノブが回った。中から、ヘザーが顔を出す。
「入って」
彼女はバリーを部屋の中に招き入れた。そしてベッドに座ると、煙草の巻紙に巻いたマリファナを吸い始める。
「まだ、止めてなかったのか」
ヘザーには、その言葉は届いていない。バリーは彼女の火の点いたマリファナを奪うと、片手でそれを握りつぶした。
「何するの?」
ヘザーがバリーを睨みつける。
「皆、心配してる」
テーブルに行くと、ヘザーは巻いてあったマリファナをくわえた。
「君は、そんな女じゃないはずだ」
バリーは彼女の左腕を掴んだ。
「じゃあ私って、どんな女なの?」
彼女の左腕を掴むバリーの手に、力が入る。
「誰よりも賢くて、気高い。初めて会ったとき、君は美しく輝いていた」
「そんなの、私じゃないわ」
ヘザーは笑う。
「もう、嫌なのよ・・・」
ヘザーの手から、マリファナが落ちる。彼女はベッドに座ると、俯いたまま呟いた。
「毎日毎日、ベトナムの悲惨な映像が映し出されるわ。もう、耐えられないの・・・」
連日、テレビのニュースでは、ベトナムからの映像が流れていた。村が焼かれ、女たちは恐れおののいていた。
「だから、現実逃避か」
「そうよ!」
バリーは彼女に寄り添うことも無く、ただヘザーを見つめていた。
「私、帰還兵の男と寝たわ」
「そうか」
バリーが呟く。
「それ以上、何も言わないのね」
ヘザーは見下したような笑みを浮かべる。
「狂ってるわ、この世界も、貴方も!」
そして、バリーを睨みつけた。
「どうして、俺が狂ってる?」
彼女は憎しみのこもった目で、バリーを見た。彼は、クスリのせいだと思っていた。
「私を一度も、愛してると言ったことが無いわ!」
「愛してなければ、ここへは来ない」
「違う!」
紺碧の瞳から、大粒の涙が流れ落ちる。
「貴方が愛してるのは、アンジェリアだけよ!」
一瞬、バリーは平静を失いかけた。
「何を言ってるんだ。アンは妹だ」
「違うわ。貴方にとって、アンは女なのよ!」
「違う!」
バリーは声を張り上げた。
「寝ているときも、貴方はアンの名前しか言わない。いつだってアンなのよ!」
立ち上がったヘザーは、バリーの目の前に立った。
「アンもずるい子だわ!ここまで貴方に着いてきて、かまってもらう為に、か弱いふりをして!」
その瞬間、バリーはヘザーを殴った。普段息を乱さないはずの、彼の息が乱れる。
「お前に・・・俺たちの気持ちが分かってたまるか・・・!」
そう言うと、バリーはすぐに背を向け、立ち去ろうとする。
「俺たち、もう終わりだ」


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