数日後、バリーとアンに法律事務所と、大学の合否結果が届いた。アンは当然のことながら合格、バリーは、受けた3社の法律事務所、全て採用だった。 採用通知が届いた翌日、バリーはヘザーのマンションに向かった。彼女は、今月になって半月以上も大学に姿を見せていなかった。彼女はベトナム反戦運動に没頭し、反戦集会と歌とクスリに溺れていた。 マンションのベルを鳴らすが、反応が無い。もう一度鳴らしても、全く反応は無かった。バリーはドアをノックする。 「ヘザー、いるんだろ?」 やはり、反応は無かった。諦めて、その場を離れようとしたとき、ドアのノブが回った。中から、ヘザーが顔を出す。 「入って」 彼女はバリーを部屋の中に招き入れた。そしてベッドに座ると、煙草の巻紙に巻いたマリファナを吸い始める。 「まだ、止めてなかったのか」 ヘザーには、その言葉は届いていない。バリーは彼女の火の点いたマリファナを奪うと、片手でそれを握りつぶした。 「何するの?」 ヘザーがバリーを睨みつける。 「皆、心配してる」 テーブルに行くと、ヘザーは巻いてあったマリファナをくわえた。 「君は、そんな女じゃないはずだ」 バリーは彼女の左腕を掴んだ。 「じゃあ私って、どんな女なの?」 彼女の左腕を掴むバリーの手に、力が入る。 「誰よりも賢くて、気高い。初めて会ったとき、君は美しく輝いていた」 「そんなの、私じゃないわ」 ヘザーは笑う。 「もう、嫌なのよ・・・」 ヘザーの手から、マリファナが落ちる。彼女はベッドに座ると、俯いたまま呟いた。 「毎日毎日、ベトナムの悲惨な映像が映し出されるわ。もう、耐えられないの・・・」 連日、テレビのニュースでは、ベトナムからの映像が流れていた。村が焼かれ、女たちは恐れおののいていた。 「だから、現実逃避か」 「そうよ!」 バリーは彼女に寄り添うことも無く、ただヘザーを見つめていた。 「私、帰還兵の男と寝たわ」 「そうか」 バリーが呟く。 「それ以上、何も言わないのね」 ヘザーは見下したような笑みを浮かべる。 「狂ってるわ、この世界も、貴方も!」 そして、バリーを睨みつけた。 「どうして、俺が狂ってる?」 彼女は憎しみのこもった目で、バリーを見た。彼は、クスリのせいだと思っていた。 「私を一度も、愛してると言ったことが無いわ!」 「愛してなければ、ここへは来ない」 「違う!」 紺碧の瞳から、大粒の涙が流れ落ちる。 「貴方が愛してるのは、アンジェリアだけよ!」 一瞬、バリーは平静を失いかけた。 「何を言ってるんだ。アンは妹だ」 「違うわ。貴方にとって、アンは女なのよ!」 「違う!」 バリーは声を張り上げた。 「寝ているときも、貴方はアンの名前しか言わない。いつだってアンなのよ!」 立ち上がったヘザーは、バリーの目の前に立った。 「アンもずるい子だわ!ここまで貴方に着いてきて、かまってもらう為に、か弱いふりをして!」 その瞬間、バリーはヘザーを殴った。普段息を乱さないはずの、彼の息が乱れる。 「お前に・・・俺たちの気持ちが分かってたまるか・・・!」 そう言うと、バリーはすぐに背を向け、立ち去ろうとする。 「俺たち、もう終わりだ」
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