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作品名:サイレンス 作者:ぴきにん

第64回   1967年10月 ヘザー・ベル・シェパード
カリフォルニア大学バークレー校で、アンジェリアの二日間に渡っての推薦入学試験が行われた。付き添いに来たバリーは、着慣れないスーツに袖を通し、その間サンフランシスコ、オークランド、リッチモンドで法律事務所の入社面接を受けていた。
途中、ランチに入った大学近くの店で、アンはバリーが着ていたスーツの意味を問いかけた。
「ローファームに入る為だ」
「どうして?」
「どうしてって、働くんだよ」
ステーキを頬張りながら、バリーは腕時計を気にしていた。
「聞いてるのは、そんな事じゃないわ!」
アンが声を荒げる。その声の大きさに、周りの客も一瞬動きが止まる。
「弁護士になるのに、イェールのロースクールに行くんじゃなかったの?」
「ロースクールでも、ローファームで実務経験を積んでも、弁護士資格は取れる」
「もう!」
アンが珍しく苛立ち始めた。
「じゃあ、ヘザーはどうするの?」
「ヘザー?」
「一緒にイェール・ロースクールに行くって、約束してたんじゃないの?」
アンの言葉を聞き、バリーのナイフとフォークが止まった。
「彼女は、俺とは目指す道が違う。それに・・・」
バリーはアンを見た。
「お前の、学費を稼がないとな」
先ほどまでの、アンの勢いが消えていく。
「私なら、スカラシップを取るわ。だから心配しないで」
「スカラシップは制約が多い。そんな制約を気にしていたら、お前の才能が伸びない」
アンは沈んだ表情を浮かべる。
「ヘザーは・・・?」
「お前が関わることじゃない」
バリーはステーキを、再び口の中に入れた。アンは黙って立ち上がると、店を出て大学へ向かった。久しぶりの口喧嘩だった。どうせヘザーを想っての言動だろうが、彼女とは、いずれけじめを着けようと考えていた。バリーは水を飲み干して立ち上がろうとしたとき、店内のテレビがざわめき、店の誰もがテレビに釘付けになっていた。ふとテレビを観ると、NFL・ナショナルフットボールカンファレンスの試合をしている。
名門・フォーティーナイナーズ対カージナルズ戦で、カージナルズのクォータバックが、タッチダウンを決めた瞬間だった。
「すごい・・・」
バリーは思わず呟いた。そのクォーターバックは、他の選手に比べて小さな身体にもかかわらず、なみいる選手のタックルを潜り抜け、異常な速さで敵のエンドゾーンに入ったのだ。テレビのキャスターが、その選手を「黒い弾丸」と呼んでいた。そのニックネームはスタンフォード大学で着けられたものだという。テレビの画面に、彼の写真と名前が出た。
彼の名はジョン・マッキンタイア。端正な顔立ちの黒人だった。バリーは二年後、ベトナムで彼と会うことになる。


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